デビューナンバー「Have a nice day」がTikTokで総再生数5億回。2作目の「NIGHT DANCER」は12億回超。注目のアーティスト、imaseが2023年5月26日に新曲をリリース。タイトルは「Nagisa」。1980年代のシティポップからインスパイアされたという。インタビュー前編。連載「NEXT GENERATIONS」とは……
1980年代シティポップからヒントを得た新曲「Nagisa」
新しいけれど、ちょっと懐かしい。青春のさわやかさを漂わせながら、ムーディなブラックミュージックの味わいもある。デビューして1年半、22歳のアーティスト、imaseが2023年5月26日にデジタルシングル「Nagisa」をリリースした。
「今作を制作するにあたって、まず1980年代のシティポップを100曲近く聴きました。ここ数年、‘80年代の日本のシティポップは世界的にもトレンドになっていますし、僕自身、’80年代の音楽ならではのキャッチーなフレーズがとても好きだから。
今回とくによく聴いたのは、竹内まりやさんの『プラスティック・ラヴ』、それから『君のハートはマリンブルー』や『ふたりの夏物語』をはじめとする杉山清貴&オメガトライブのナンバーです。オメガトライブは両親が好きで、子供のころ家族で出かけるときにクルマのなかでいつも聴いていました」
imaseは’80年代のポップスのリズムに特に興味を覚えた。
「ドラムスの音色が特徴的なんですよ。スネアドラム(主にリズムを刻む小太鼓)の広がりがはっきりしていて、広がるように響きます。『Nagisa』の導入部はキック(ドラムセットの前面にセットされているキックペダルで低音を鳴らす大太鼓)4つでスタートします。あれは、’80年代のクラブシーンで、DJがスクラッチで曲をつなぐときに行っていた技術です。
’80年代シティポップって、いい意味でイナタイと思うんです。たとえばピアノのピッチが必ずしも正確でない曲もあります。それがむしろ曲を魅力的にしている。そのあたりをアレンジャーの久保田真悟さんにお話して、音づくりに反映していただきました。その結果、僕が想像していた以上の仕上がりになりました」
地声と裏声を使い分けて男女の恋愛を歌う
新曲「Nagisa」の歌詞の内容は、若い男女のラヴアフェア。imaseは、地声と裏声を巧みに使い分けて、恋する2人の物語を歌っていく。まるで男女のコーラス隊のように声を重ねていく。
「主人公には恋愛関係をぐいぐい進めていく強気の女性を据えました。女性の主人公を歌うのは初めてのチャレンジです。僕自身、強気の女性は好きです。でも、『Nagisa』に登場する子は本当に強いわけではありません。曲の終盤では、彼女は弱気な顔も見せる。強さともろさ、そういうギャップのある女性を表現しました」
ラヴアフェアを歌う「Nagisa」をよく聴くと、エロさを感じる描写もある。
「歌詞は最初にサビのフレーズができました。恋愛の歌詞はとても悩ましく、言葉選びに苦戦しました。
さらに、リスナーの想像に任せる領域を意識して設けています。このあたりも’80年代のシティポップからヒントを得た手法です。
いろいろな曲を聴くと、あえてストレートに、露骨な表現で歌う方もいらっしゃいます。歌詞に関してはできるだけロマンティックな描写になるように心がけました」
「渚」には日本語ならではのロマンティックな響きがある
imaseは岐阜の山間部で生まれ育った。海のない土地で暮らし、音づくりをしてきた。なのになぜ“渚”なのか?
「確かに僕にとって、海は身近ではありません。『Nagisa』の歌詞で歌われるようなロマンティックな体験はありません。イマジネーションの世界です。海の思い出といえば、愛知県や三重県の海にイカ釣りに行ったくらいでしょうか。それなのに、なぜ海を舞台に『Nagisa』というタイトルの曲を書いたのか――。
それも’80年代のシティポップからヒントを得ました。僕が聴いた100曲近くのかなり多くの歌詞で“渚”という言葉が使われていました。海や湖の波打ち際のことをいう渚は’80年代シティポップを象徴していると感じ、タイトルにしました。
それにこの言葉は日本語ならではの表現で、響きも美しい。海の向こうのリスナーにも響くのではないかと期待しています」
そんなimaseが音楽制作を始めたのは、コロナ禍の2020年。岐阜で家業に従事しながら音楽をつくり、2年弱のキャリアで日本のポップシーンで活躍を始めた。インタビュー後編ではその制作について話を聞く。
■連載「NEXT GENERATIONS」とは……
新世代のアーティストやクリエイター、表現者の仕事観に迫る連載。毎回、さまざまな業界で活躍する10~20代の“若手”に、現在の職業にいたった経緯や、今取り組んでいる仕事について、これからの展望などを聞き、それぞれが持つ独自の“仕事論”を紹介する。