RADWIMPSの野田洋次郎や音楽関係者から唯一無二の声と称され、ドラマ主題歌や数多くのブランドのタイアップソングに抜擢されるなど、今注目のシンガーソングライター・iri。2022年12月21日に配信したシングル曲「Roll」をはじめ、彼女の楽曲では私的な日記のように彼女の内面が歌われ、飾りのない裸の言葉が吐露される。そんな彼女の素顔に迫った。
「私的な日記のように音楽を綴っていきます」
解放、憧れ、希望、こわれそうな心……。シンガーソングライター、iriが2022年12月21日に配信したシングル曲「Roll」はシンプルなビートに後押しされるように、彼女の内面が歌われていく。飾りのない裸の言葉が吐露される。
いいの? そんなに正直でいいの? リスナーはそう思いながらも、心が揺れながら暮らしているのは自分だけではない――と知り、救われる。
「シングル曲やアルバムのリード曲は、テーマを決めずにつくることが多くて。その時の私のありのままの心情、心境をリアルに歌っています。『Roll』も、28歳の、今の私です」
噓の混ざらないiriの言葉や声に、聴く人は共感する。
「できあがった曲を聴いて、恥ずかしくなることはあります。私の心の中を見せすぎちゃったな……と。自分の思うことを自分に向けて歌ってきて、それを多くの人にも聴いていただいている感覚なんです。プライベートを綴った日記を読まれてしまっているような」
確かにこれまでのiriの楽曲「会いたいわ」も「Watashi」も、やわらかな心のなかを覗かせてもらった気がした。
「デビュー前からずっとこうやって曲をつくってきたし、今はこれしかできないんですよ」
iriは神奈川県の逗子で生まれ育った。高校生の時、自宅にあった母親のアコースティックギターを手に取り、弾き語りを始める。海辺で歌ったり。潮の香りのする路地で歌ったり。
「子供のころからちょっと集団行動が苦手で、ひとりでいる時間が好きでした。頭の中に浮かんだ言葉をノートに書き連ねて、音楽にしていました」
やがて曲が増え、人の集まる場所でも歌うようになった。
「人前で歌うようになったのは18歳くらいの時からです。逗子海岸から小道を一本入った路地裏に、シネマカフェがあります。食事をしながら映画を観られる小さなシアター。オーナーにお願いして、そこで歌わせてもらえるようになりました。隣町の鎌倉の小町通りにある地元で愛されているジャズクラブでも歌うようになりました」
パフォーマンスしている時は、自分が自分であることを感じられた。ずっと音楽で生きていきたいと思った。
そして2014年、ソニーミュージックとファッション誌が合同で開催したオーディション「JAM」のミュージック・パフォーマンス部門でグランプリを獲得。翌年デビューした。
iriの音楽はジャンルでくくりづらい。R&B、ヒップホップ、ラップミュージック……、さまざまな音がフュージョンして、曲によって異なる顔、異なる表情を見せてくれる。
「緻密に計算した音づくりは敢えてやっていないからかもしれません。頭のなかで生まれたメロディをもとに、トラックメーカーの方に音をつくっていただいて言葉を乗せたり。ギターの弾き語りをしたり」
ギターの弦を押さえ音を出していると、思いもよらぬコード進行に出合えるという。
「そんな縁をとても大切にしています。偶然の音をループしているうちに言葉が生まれてきます。それを音に乗せていく。すると、自分でも気づかなかったような新しいメロディや歌詞になっていくんですよ」
誰かの真似をしないことはもちろん、過去の自分自身に似たくもない。自分がつくった音に自分で驚き続けたい。
「音楽がなかなかできないことももちろんあります。でも、苦しみは苦しみのまま楽曲にできればいいかな。そうしていると、音楽=自分という感覚になってきます。今はすべてを音楽に捧げる思いです」