ひふみ投信シリーズのファンドマネージャー藤野英人氏が率いるレオス・キャピタルワークスが運営するYouTubeチャンネル「お金のまなびば!」から、藤野氏と、名経営者を側で見てきたインフルエンサーで企業PRを務める田端信太郎氏の対談を3回に渡って紹介。第2回目は、前澤友作氏から学んだお金の考え方、そして田端氏人生最大の投資について。#1
前澤友作と堀江貴文、どっちが上司としてしんどいか!?
2018年から約2年間、田端信太郎氏はスタートトゥデイ(現ZOZO)にて、執行役員 コミュニケーションデザイン室長として前澤友作氏とともに仕事をしてきた。その時の前澤氏の印象をこう語る。
「ご本人も言っていましたが、基本経営者というより、バンドマン、ミュージシャンなんです。ミュージシャンとしてご自分が欲しい海外のCDの輸入代行販売を始めて、ついでに友達の分も買って、とやっているうちに徐々に大きくなって。
CDだけではなくてTシャツの販売もしているうちにZOZOになっていったんです。だから本当の意味で言えば、前澤さんはお金にそんなに興味がない人なんだと思います。今、正確に自分の資産がいくらあるのかもわかっていないかもしれません」
Twitterなどでの派手な「お金配り」ばかりが世間に注目されてしまうのも、田端氏は納得がいかない様子だ。
「あれだって、例えばバンクシーのメディアアートみたいなもの。要するに愉快犯だと思えば理解できる。ああいうことをやるのは経営者としてはしたない、という批判もありますが、前澤さんが『そんなのはどうでもいい』と思えば思うほど、逆にお金が入ってくるパラドックスにあるのかもしれません。そのパラドックスをまずみんな受け止めるべきだと思います」
前澤氏は上司として、基準をはっきりと持っていて、部下としては働きやすかったと田端氏は当時を振り返る。
「前澤さんがいわゆる普通の経営者と違うところは、常にアウトプットを求めることでした。例えばイメージ動画を作りましょうとなった時、ビジネスマン的発想なら、どういうターゲットにどういうメッセージを届けるかまず整理して、そこから動画を作ろうとなるでしょう。
けれど前澤さんはパワーポイント的な説明だと聞いてくれません。最初から『作ってみました』といって、2、3パターン動画を見てもらって、そこから感じたことをどんどんセッションしていくというやり方のほうがいい。前澤さんのことを経営者だと思うと、『こんなやり方していたら、手戻りが多くて辛いな』と感じてしまいますけど、ミュージシャンだと思えば納得できる。ミュージシャンの方って、きっとラブソングを作ろうと思ってみんなで会議しないですよね? 今の気分の中で、録音していって作っていくのがきっと普通で。そう思えばすごく納得できます。
一方で堀江さんの場合は、とにかく早く、というのが求められていましたから、部下としてのしんどさの質は全然違いますね」
価値と価格は違う
YouTubeチャンネル「田端大学 YouTube支店」などで常にお金について発信を続けている田端氏にとって、人生最大の投資はなんだったのかと、藤野氏が問うと。
「ライブドアの再建が終わり、2010年に私はライブドアを1度やめているんです。コンデナスト・ジャパンという会社に行き、VOGUEやGQといったメディアのデジタル化の責任者をやっていたのですが、2年ほどして、ライブドアを買収した今のLINE(当時NHN Japan)に戻ることにしたんです。ライブドアからコンデナストに行く際に給料は上がっていたんですが、LINEに戻る時は、ライブドアにいた時と同じ給料に戻ってしまった。コンデナストから転職することで、2割ほど給料が下がる結果だったんですよ。
でもその頃LINEは伸び盛りで、利用者が2000万人を突破したくらいの時期。給料が下がってもいいから、この伸びている会社にと思ったんです。自分としては下がった給料の差額分を投資した気持ちでしたね」
その後のLINEの成長はご存じの通りだ。減ったはずの給料はいつしか何倍にもなっていったという。その田端氏の体験談を受け、「(稀に見る急成長を遂げた)あの時のLINEにいた、という経験値はめちゃめちゃプライスレス」と藤野氏は続けた。
「でも、多くの人は、そのプライスレスな部分よりも、目先の金のことを言っている人がすごく多い気がします」
この言葉に、田端氏も深く頷く。
「お金ってただの紙切れですから。原価厨なんて言い方もありますが、食べ放題ビュッフェに行ったら1番原価の高いものを食べようって頑張るの、すごく浅ましいと思うんです。好きなものを食べたらいいのに。原価だけで考えてしまったら、1万円札って原価22円とかでしょう。原価厨は拝金主義ですが、そうして溜め込むのが、1番原価率の低い札束っていう不思議なことになってしまう。
価値と価格は違う。これを混同させてはいけないと思うんです。いったんお金が減ったと思っても、そこに価値があればいつか必ず回収できるんです」
藤野氏も言う。
「『価格』と『価値』の違いを意識しているか否かが、投資家としてもビジネスマンとしても伸び代は変わってくる。今の自分の価値は、やっていることの価値は、そして今という時間の価値とはなにか。それを常に考え、一方でそれに対する費用やリターンにギャップがあるのかどうかを常にフラットに見れるかどうかが大事です。
お金としては価値がないけれど、自分の心にとって重要なことって、ありますよね」
自分にとって価値のあるものが何かも知らず、あの世に持っていけない金ばかりを追い求めるのは虚しいことだと2人の意見は一致した。藤野氏は言う。
「僕は今56歳ですが、あと20年生きるとして、今もっているものは20年の所有権しかない。だからこそ、モノを所有する意味も考えた方がいいと思います」
金を知るために、金にまつわる言葉の意味を考え続ける
貨幣、資本、資産……お金を表す言葉は世の中に無数にある。そしてそれは少しずつ意味が違うけれど、その違いを考え続けていかないと、本当の意味でお金を知ることはできないと田端氏は言う。
「その意味の違いを、ああでもないこうでもないと考え続けていくことはすごく大事だと思うんです。先ほど言った価値と価格の違いもそう。
例えばエスキモーの人たちには、雪の状態を表す言葉が30種類以上あるそうです。その意味をひとつひとつ考え知っていくことで、雪を、自然をより理解できる。
それと同じで、お金についても考え、知っていく。『お金持ち』という言葉ひとくくりにせずに、資産家なのか、経営者なのか、資本家なのか……その違いを考え続けていくことが必要です」
そう言い切った田端氏に、あえて藤野氏は大きな質問をした。
「お金って一言で言うとどんなもの?」
田端氏の答えに、迷いはなかった。
「自由のためのチケットだと思います」
金は自由に生きるための手段だからこそ、囚われすぎてはいけない。
そして自由に生きるために、必要不可欠なものだからこそ、きちんとその意味を知らなくてはいけない。時代を席巻する経営者とともに過ごした日々は、田端氏に確固たる金の哲学を与えたのだ。次回は、新社会人に向けて、自身をブランド化する方法を説く。
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