PERSON

2023.04.08

ミサワホーム竹中宣雄と慶應義塾大学 竹中平蔵。仲良し兄弟が大切にしている母からの教え

弟は昔から本当にずっと勉強していたと語る、ミサワホーム取締役前会長 竹中宣雄と、兄は色々な道を開拓してくれた憧れの存在だったと語る、慶應義塾大学名誉教授 竹中平蔵。和歌山が生んだ天才兄弟が語る思い出のエピソードを紹介。連載「相師相愛」とは……

ミサワホーム取締役前会長 竹中宣雄(右)、慶應義塾大学名誉教授 竹中平蔵(左)

末は社長か大臣か

宣雄 男3人兄弟で、私が長男、三男はアメリカにいます。平蔵さんで思い出深いのは、晩ご飯ができて呼びに行っても、勉強に集中していて気づかなかったことかな。何度もあった。

平蔵 まったく記憶していません(笑)。

宣雄 弟を褒めすぎたらよくないけど、本当によく勉強していたし、努力していた。バブルの最中、私が交通事故にあって入院していると、アメリカから戻ってきてくれて、枕元で教えてくれたのを今も覚えているんです。これからはポートフォリオ経営とコンパクトシティだよ、と。まだ昭和の時代ですよ。20年ほどして私が社長になったとき、このふたつは大きなキーワードになりました。

平蔵 ひどい事故で、あの時、通算して1年近く会社を休んだんじゃない? そんなに休んだのちに社長になったんですよね。

宣雄 60数ヵ所、骨折したから。

平蔵 子供は親の背中を見て育つ、と言いますが、男兄弟の次男や三男は、長男の足跡を見ながら歩くんですよ。野球が上手くてスポーツマンだった兄は、小さい頃から憧れでした。やっぱり長男だから、いつもいろんなことを考えてくれていて。こういう対談は初めてなんですが、今日は私の誕生日なんです。こんな日にセットしてくれるのが、長男なんですよ。東京の大学に進学するという道を開いてくれたのも兄でした。和歌山の片田舎で育ちましたけど、周りに大学に行く人なんて、いなかったんですから。

宣雄 東京に出てくると、よく一緒に野球を観に行ったなぁ。

平蔵 阪神が巨人をコテンパンにやっつけるのが観たくて。初めて一緒に行った後楽園球場は今も覚えていますよ。初戦は江夏、2戦目は村山。痛快でした。

宣雄 懐かしいね。それにしても「末は博士か大臣か」なんて言葉があるけど、平蔵さんは両方になっちゃったんだから。

平蔵 いえいえ、営業担当から始めて、大企業の社長になったほうがすごいですよ。でも大臣の時も、選挙に出た時も、思い切り助けてもらいました。母が「とにかく3人仲良くしろ」とよく言っていましたが、この歳になって、改めてその言葉の意味を思います。

宣雄 子供の頃はしょっちゅうケンカしてたけど、それは実力が拮抗していたから。今はかかっていってはいけない相手だとわかってるから(笑)。

平蔵 また、そういうことを言って、笑わせる兄なんですよ。

宣雄 父も母も、もう他界したけれど、忙しい合間を縫ってふたりの様子を見に来てくれたね。

平蔵 義務教育しか受けていない人たちだったけど、それこそ我々よりも教養がありました。知識ではなく、いろんなことを深く考えていたからだと思う。そういう時代を生きてきた世代の強さを思います。

宣雄 政治の世界にいる頃も、ふたりで合う時に絶対に公用車で来なかったのは、印象に残っている。平蔵さんは、本当にちゃんとしていた。

平蔵 小泉純一郎元総理はお酒もゴルフも楽しむけれど、私は両方やらない。それで、私の代わりに兄が行ってくれるようになりました。「お兄さん、ゴルフうまいなぁ」なんて言われたり。あっという間に人の心をつかんで、政治のコミュニティにもポンと溶けこめてしまうのは、さすが兄だと思います。

宣雄 やっぱり師かな(笑)。

平蔵 ビートルズをはじめ、音楽を教えてくれたのも兄でした。やっぱり人生は感動したいんだと思うんですよ。音楽もそうだし、スポーツもそうだし、旅行もそう。感動を共有することは、素晴らしい体験なんです。だから、少し時間ができるようになったら、いろんな感動を兄と共有していきたいですね。

宣雄 平蔵さんという人は、人の悪口を言わない人なんですよ。だから、一緒に過ごしていてまったく不愉快にならない。心地いい時間が過ごせるんです。これから自由な時間を増やして、たくさん話をしていきたいですね。

Nobuo Takenaka
1948年生まれ。法政大学卒業後、ミサワホームに入社。2008年より本社社長。2022年より現職。2017年に藍綬褒章を、2022年に、春の旭日重光章を受章。

Heizo Takenaka
1951年生まれ。一橋大学卒業後、日本開発銀行入行。1981年に退職後、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学教授などを務める。金融担当大臣などを歴任。

■連載「相師相愛」とは……
師匠か、恩師か、目をかける若手か、はたまた一生のライバルか。相思相愛ならぬ、相”師”相愛ともいえるふたりの姿を紹介する。

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TEXT=上阪徹

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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