SUPPOSE DESIGN OFFICE 代表 谷尻誠とNOT A HOTEL 代表取締役CEO 濱渦伸次。クレイジーな建築家と施主がお互いのエピソードを紹介! 連載「相師相愛」とは……
全く新しいことをするなら、クレイジーでないと
濵渦 8年前に一度お会いしていたんですよね。
谷尻 ZOZOにご自身の会社を売却された直後でした。今では珍しいことではないですが、時代を先取りしていましたよね。
濵渦 2年前、ホテルをやりたいと思って土地を探そうと、絶景と不動産で検索したら「絶景不動産」というサイトがあって。谷尻さんの名前があったので、これは連絡してみようと。
谷尻 コロナが始まり、みんなが下を向いていた頃。ましてや業績が厳しくなることが予想されたホテル。しかも名前がNOT A HOTEL。驚きました。
濵渦 銀行の融資を断られたので、発想を変えて先に部屋を売っちゃえばいいと思ったんです。それなら建った時には投資回収ができている。別荘として買い、使わない時にはホテルとして回す。相当に新しいビジネスモデルですから、建築家もクレイジーな人でないとダメだと思っていました(笑)。
谷尻 ビジョンも未来も120%共感したんですが、唯一心配だったのは、ホテルの部屋をネットで売ると言われたこと。たしかにクルマもネットで買える時代ですが、こりゃまた相当に先を行っているな、と(笑)。
濵渦 僕は建築のことを何も知らなくて。それこそ、測量とか抵当権とか坪単価もわからなかった。かなり無茶を言いました。
谷尻 知らないのがいいんですよ。知っているとチャレンジしなくなる。知識が一番クリエイティヴを邪魔するんです。見習わないと、と思ったくらいです。
濵渦 無理だと言われると僕は燃えるんですよね。
谷尻 まったく同感です。今日の異端は未来のスタンダードなんですよ。ただ、たしかに相当な無茶だったので、みんなで火の車になりましたけど(笑)。
濵渦 でもすごいなぁと思ったのは、僕らが「これでいい」と言っているのに、次の週に違うプランを持ってこられたことです。こっちのほうが、みたいな(笑)。僕らのビジネスを本当に深く理解してもらっていて。
谷尻 だってCGで売らないといけないんですから(笑)。
濵渦 でも販売開始24時間でいきなり15億円分が売れて。
谷尻 ドキドキでしたが、本当によかった。
濵渦 那須に続いてみなかみの物件を依頼しています。温泉インフィニティプールという驚きのアイデアをいただいて。
谷尻 本当は自分の別荘でやりたかったんですよ。別のアイデアを考えなくちゃ(笑)。
濵渦 僕はもともと家具のコレクターでピエール・ジャンヌレが好きなんです。ホテルも大好きで、相当行っていて。でも、さすが、谷尻さんもたくさんご覧になっているので、いろいろなイメージを作るときに本当に話が早かった。
谷尻 やっぱり体験しないとわからないんですよ。みんな自己投資は惜しまないですよね。何をレコメンドされるのか聞けば、濱渦さんがどんなものを好むのか、よくわかりました。
濵渦 最初に那須の物件のパースをもらったとき、突き抜けてるな、と思ったんです。社内では、女性受けしないのでは、という意見もあったんですが、バランスを取ってないのがいいと僕は思いました。中途半端になってしまうから。
谷尻 意識したのは、野生に寄せることでした。建築って知性で作ってしまうところがある。でも、野生っぽさって大事なんですよ。
濵渦 絶対これでいいと決めたのは、谷尻さんのご自宅を見せてもらったときです。暗いし、全然バランスが取れていない。でも、とても心地いいんです。
谷尻 世界を回れば、太陽の光で燦燦と明るいのが必ずしも正義ではない、とわかりますよね。
濵渦 これだから、いい土地が出ると谷尻さんに相談したくなるんです(笑)。またぜひ、一緒に見に行きましょう。
■連載「相師相愛」とは……
師匠か、恩師か、目を掛ける若手か、はたまた一生のライバルか。相思相愛ならぬ「相師相愛」ともいえるふたりの姿を紹介する。