ホテリエとはホテルの経営者や投資家、支配人。また、最近ではホテルが大好きで高感度な旅人もホテリエと呼ばれる。今までに訪れた国は70ヵ国以上。日本を代表するホテリエの野尻佳孝氏に理想のホテルを聞いた。【特集 ホテル案内2023】
公私にかかわらず、生活の9割がホテル
幼少の頃から誕生日や卒業・入学、部活の祝勝会など、事あるごとにホテルで過ごしてきた。そして世界中のホテルを回り、今ではホテルも運営。手がけたTRUNK(HOTEL)は、ライフスタイル感度の高い人たちから圧倒的な支持を集めている。いわば生粋のホテリエ、それが野尻佳孝氏だ。
野尻氏は26歳でテイクアンドギヴ・ニーズを起業し、ハウスウェディング事業を展開。2000年代前半にはホテル事業への進出を宣言。30代で世界の主要都市や有名リゾート地にある5つ星に代表される王道ホテルを泊まり歩き、40代では世界中のブティックホテル、エッジの効いたさまざまなホテルを体感してきた。
2008年からの3年間は海外に拠点を移し、ホテル暮らしも経験。今でも常に世界中を回る。仕事もプライベートも合わせて、ホテルが生活の9割になっていると話す野尻氏だが、50歳になった今考える、居心地のよさを感じるホテルとは?
「全体のデザインがうまく設計されているホテルが好きですね。具体的にはストーリー、コンセプト、フロアプラン、コンテンツ、内装、外装、接遇、サステナビリティなどに一気通貫するものがある、つまりすべてにおいてトーン&マナーが合っていることが絶対条件です。トレンドを追いかけることなく、唯一無二の価値観があり、いつ行ってもカッコいい。こういうホテルって何年経ってもゲストの質が変わらないんです」
なかでも最近、野尻氏がとりわけ気に入っているのはアメリカの「プロパー ホテル」だ。
「ご夫婦で手がけているホテルで、旦那さんがアセットマネージャー、奥さんのケリー・ウェアスラー氏はインスタグラムのフォロワーが200万人超えの著名なデザイナーです。『プロパー ホテル』はコンセプトやストーリー、フロアプランなどすべてが素晴らしく、特に空間づくりが上手。床材のコーナーの仕上げや家具の素材、照明の場所、植栽の配置などどこを見ても抜け目がなく、どこにいても気分が上がります。働くスタッフのユニフォームは10種類以上用意されていて、ひとりひとりが自分なりのスタイリングを楽しんでいる。なのに統一感があって本当にお洒落なんです」
現在「プロパー ホテル」は米国で4軒を展開。野尻氏はサンタモニカとダウンタウンLAを贔屓(ひいき)にする。もともとオフィスだった2棟をつなぐサンタモニカのルーフトップには昼夜を問わず、地元の人が遊びにくる。
「建物のいびつな形状を活かした迷路のようなつくりも魅力で、幅が1メートルほどの狭い通路もありますが、それが楽しい」
また、ダウンタウンLAは多様なデザインの部屋が特徴で、バスケットコートやプールのついた部屋もあって面白いと言う。
一方、オープンから10年以上経つがまったく色褪せないと話すのが、ロンドンにある「チルターン ファイヤハウス」だ。ここは「スタンダード ホテル」や「ザ・マーサー」などを成功に導き、野尻氏が世界一のホテリエだと賞賛するアンドレ・バラス氏が手がけるホテルで、ライフスタイル感度の高いニューラグジュアリー層が集まるのだとか。
「ハイクオリティカジュアルとフォーマルのミックス加減がすごく上手です。スタッフの服装はオーセンティックとエレガンスを混ぜ合わせたような雰囲気で、それがほどよい緊張感を生み出しています。セレブリティが集まるカフェやバー、レストランには秘密があって、実はトイレの奥に隠し扉があるんです。そこを抜けるとイベントスペースが広がっていて、アンダーグラウンドなパーティが夜な夜な行われている。そんなカオスな感じも好きですね」
スローライフの基本理念に共感
野尻氏がコンセプトに共感するのがモルディブの「ソネバジャニ」。ソヌ・シヴダサニ氏が手がけたスローライフを基本理念とするリゾートである。
「ソヌさんはラグジュアリーの定義を希少な体験、喜びや幸福感と捉えていて、例えば小さなプロペラ機でコテージのある浮島に到着すると靴を取り上げられ、日常を忘れる体験ができます。バトラーはボートを運転できるし、魚を獲れるし、それを捌いて料理もできる。泳ぎもライフセーバーレベル。万能なホスピタリティにも驚きました」
野尻氏にとって理想のホテル、居心地のいいホテルとは、ホテリエのセンス、哲学が隅々にまで行き渡ったホテルなのだ。
これまでにおよそ70ヵ国以上を訪れてきた野尻氏。海外での知見をもとに2030年頃までにトランクホテルブランドで10、他のブランドで10ホテルを計画している。世界標準を知るホテリエが生みだすホテルは、ますます進化を遂げていく。
FAVORITE HOTELS LIST
①アメリカ・カリフォルニア|Santa Monica Proper Hotel
「ルーフトップはカフェやプールなどのゾーンに分かれ、いつどこに居ても心地よい」
②アメリカ・カリフォルニア|Downtown L.A. Proper Hotel
「地元の人たちが、ほかで飲んだあとに集まってくるほどの人気。今後の展開が楽しみ」
③イギリス・ロンドン|Chiltern Firehouse
「消防署をリノベーション。客室総数26とこじんまりしているが、その分、とにかく贅沢」
④モルディブ・ヌーヌ環礁|Soneva Jani
「楽しいだけではなく、サステナビリティへの取り組みに力を入れている点にも共感」
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