PERSON

2022.11.22

【長友佑都】「固い」メンタルは折れやすい。持つべきは「しなやかで柔らかい心」

日本サッカー史上初めて4大会連続ワールドカップメンバー入りを果たした、長友佑都。数々の批判を受けながらも重圧に負けず、それをエネルギーに変換していく、彼のメンタルタフネスの極意とは。上梓した『[メンタルモンスター]になる』より一部抜粋してお届けする。第4回。

長友佑都

写真:JFA/アフロ

簡単に折れないメンタル

2022年11月に行われる、カタールワールドカップが僕のサッカー人生のハイライトになることは間違いない。

メンバーに選ばれても、選ばれなくても「サッカー選手・長友佑都」にとって、ひとつの区切りになるだろう。

原稿を書いている今は、高いモチベーションを持ち、カタールの地で躍動する自分を毎日想像している。それがなければ、正直走り続けることは難しかっただろうと思う。

ワールドカップに出るためには、当然のごとく「日本代表」であることが必要だ。

「日本代表」は、いつだって僕の心の支えであり続けていてくれた。

特に、インテルでマンチーニ監督やスパレッティ監督から「試合に出るチャンスはない」と言われたり、ガラタサライで外国人枠を外れたときなど、チームに貢献することが叶わないときは、「日本代表」でプレーする自分を思い描き、苦しい日々を耐え忍んだ。

いま苦しくても、日本代表がある。

そこでは輝き続けたい。

僕にとって日本代表には、それだけのパワーがあった。

僕が、日本代表に熱くなるのも、いつだって僕の希望となってくれていたことに感謝しているからだ。

たった一度だけ、そのパワーを失ったことがある。

ブラジルワールドカップ終了後の2014-2015シーズンのことだ。

このとき、メンタルの状態を保つことがどれだけ大事であるか、もっと言えば、メンタルこそすべてである、ということを学んだ。

圭佑らとともに「ワールドカップ優勝」を口にし、本気でそれを狙える位置にいると思っていた。なのに僕らは、優勝はおろか1勝もできず、ワールドカップを去った。

敗退した瞬間に受けた悔しさは形容しがたいものがあったけれど、もっとも苦しかったのはそれ以降、シーズンを通して、どんな手を使ってもモチベーションを上げることができない時間だった。

人生で初めてサッカーをすることが嫌になり、練習にすら行きたくなかった。いつももやもやしている、そんな感覚があった。

びっくりすることに、こうやってメンタル的に気持ちが乗らないと、体にも影響が出てくる。

ワールドカップ終了後のシーズン、前シーズンのプレーが評価されて、副キャプテンに指名されていたのだけど、僕は次々とケガに襲われてその役目を果たすどころか、プレーをすることもできなかったのだ。

自信を取り戻すためにも重要だったシーズンは、そのスタートから雲行きが怪しかった。

開幕戦はスタメン落ちしたものの、次節にはスターティングラインナップに戻った。だけど、プレーを初めてすぐに左足に違和感を覚える。太ももに張りがある。何とかプレーを続けていたけれど、後半17分に自ら交代を申し出た。

次戦はフル出場、翌戦は控え。迎えた5節のカリアリ戦は大きな転機だった。

キャプテンマークを付けて出場したこの試合、僕は前半27分に退場処分を受けた。25分にイエロー1枚、その2分後にもう一度……。

チームに申し訳ない……。

この後、日本代表に戻りジャマイカ代表やブラジル代表とテストマッチを行っていた。ブラジル戦は欠場したが、ジャマイカ戦でのパフォーマンスも手ごたえを感じられるものではなかった。

インテルに戻ると、慕っていたマッツァーリ監督が解任された。僕自身もふくらはぎの張りがどうしても引かず、4試合連続でベンチ外となった。

極めつきは、11月の頭に罹ったインフルエンザだった。

コンディション不良、退場、その後にまたケガをし、今度はインフルエンザ……。

すべてはあのワールドカップの失意から始まっていた。それまでたぎっていた大きな存在への思いを取り戻すことができない。メンタルが上がってこないことで、フィジカルや技術にも影響が出ていた。

何とかしたいと思い、自分自身に何度も言い聞かせていた。

「こんなことでいいのか? お前はそんなものか? もっと強くなれよ……」

メンタルが弱っている。強くあらねば。自分に打ち勝て――。

思えば思うほど、体中が力んでいく。

そのときは気付けなかった。僕の心は「カッチカチ」に固まっていたのだ。強いメンタルを取り戻そう、強くしなければいけないと思い続け、無理やり固めていたのだ。

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Yuto Nagatomo
1986年9月12日生まれ。明治大学在学中の2006年に選出された全日本大学選抜にて注目を集め、プロ1年目となる'08年にはFC東京でJリーグ優秀選手賞と優秀新人賞をダブル受賞。'10年6月南アフリカで開催されたFIFAワールドカップ大会後、7月からイタリア1部リーグ(セリエA)のチェゼーナに移籍。その後'11年1月、ミラノに本拠地を置くインテル・ミラノへの移籍が決まり、日本だけでなく世界のサッカーファンに衝撃を与える。'18年にロシアで開催されたワールドカップでは、3大会連続となる日本代表メンバーに選出され、全4試合にフル出場し、チームの決勝トーナメント進出に貢献。その後、ガラタサライやオリンピック・マルセイユといった世界的名門クラブを渡り歩いた後、'21年、FC東京に復帰。

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TEXT=長友佑都

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