PERSON

2022.11.20

【メンタルモンスター・長友佑都】ネガティブをポジティブに変換する術

日本サッカー史上初めて4大会連続ワールドカップ出場を目指す、長友佑都。数々の批判を受けながらも重圧に負けず、それをエネルギーに変換していく、彼のメンタルタフネスの極意とは。2022年11月に上梓した『[メンタルモンスター]になる』より一部抜粋してお届けする。第2回。

長友佑都

写真:JFA/アフロ

自らへの批判をパワーに変換するためには

人生を変える経験をするたびに僕は強くなった。

超人ハルクに負けない「メンタルモンスター」へと歩を進めることができている。

書いてきたように必ずそのそばにあったのが重圧との戦いである。メンタルモンスターになるために、もっと言えば、光を与える存在でいるためには、避けて通れないものだ。

その乗り越え方を僕は、経験的に学んでいった。

「長友はポジティブだ」と言われるのはその方法を身につけることができたから。いわば、「ネガティブをポジティブに変換する術」とも言える。

いいプレーをするためには批判や重圧を自分の糧にしてポジティブに変えなければならない、と思うようになったのは、海外でプレーを始めてからだ。というのも、とにかくインテル時代は、賞賛と批判、双方がすさまじかった。

いいプレーをすれば神様のように扱われ、敗戦に直結するプレーをすれば「HARAKIRI(腹切り)」と書かれた。メディアだけでなく、ファンからも。

負けた翌日は、ミラノの市内を歩くのが怖かった。勝った翌日はまるで英雄のよう。

そうした日々を7年も過ごすうちに、批判や重圧の見方、捉え方を、自分の中で変えられるようになってきた。

批判を受けたり、ミスをしてしまった後、前へ進むために重要なことは、まず「HOW」(どうやって)を見つけることだ。
人は失敗をするとどうしても「WHY」(なぜ)ばかりを追求してしまう。

なぜ、あのミスをしたのか。

なぜ、前にクリアできなかったのか。なぜ……。

もちろんそれは大事な作業だが、マインドが「WHY」ばかりになると、なかなか前へ進むことができなくなる。それは、いつまでも「批判」や「ミス」にとらわれているのと同じだ。

どこかでスイッチを「HOW」に切り替える。

大切なのはそのスイッチだ。

例えば、イタリアにいる頃は、車に乗ることが僕のスイッチだった。

あれは2017年4月30日のナポリ戦のことだ。

僕のクリアミスが失点にそのまま直結し、実質的にそのプレーで、インテルのチャンピオンズリーグ出場権はおろか、ヨーロッパリーグの出場をも逃す結果になった。

あのときはありえないくらい凹んだ。チームメイトが心配してくれるほどで、彼らに「申し訳ない」と言うだけで、精いっぱいだった。

クラブハウスを出て、車に乗る。

このとき、何となく心に決めていた。

「家では絶対に凹まない。なぜ? を考えないようにしよう」

ハンドルを握り、アクセルを踏みながら――片道30分の車中で僕は「HOW」を考えることにシフトした。

どうすればあのミスを防げるか。

どのように今後取り組めばいいのか。

その試合後、僕はひとつのツイートをした。

〈ナポリ戦自分のミスで負けた。これがサッカー。1つのミスで勝敗が決まる。転んだら立ち上がればいい。俺はまだまだ強くなれる。〉

昔から変わっていないな、と思うけど、このツイートは案の定、大炎上した。翌日の地元の新聞にも掲載されて、ずいぶんと叩かれた。

けれど、僕にとっては重要な行動だった。

ミスをしてしまう未熟な自分をより成長させるためのエネルギー。それは、素直な思いを吐露したときに、返ってくる賛否の声だ。

ときにはそれが厳しい批判であったとしても……いや、批判だからこそ、かもしれない。

勝利を願ってくれたサポーターの厳しい声を真摯に受け止めつつ、反骨心のエネルギーにする。実際、賛否の中に「HOW」のヒントが隠れていたりもする。

日本代表で「長友不要論」が話題になっていたとき、僕は積極的にYahoo! ニュースにある自分の記事の「コメント欄」を見ていた。

相当な書かれようだったけど、「なるほどな」とか「よく見えているな」と思う言葉もあった。

僕はあえてそれを「拾い」にいって、自分の財産にしようと思ったのだ。

逆に気を付けなければいけないのは賞賛だ。

褒められるとうれしいし、気分がいい。でも、それを成長させてくれるもの、として捉えたり、批判を受け止められなくなると、独善的になってしまう。

自分は正しい、あいつらはわかっていない――。

批判やミスの中に、成長のチャンスがある。それは僕の信念だ。

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Yuto Nagatomo
1986年9月12日生まれ。明治大学在学中の2006年に選出された全日本大学選抜にて注目を集め、プロ1年目となる'08年にはFC東京でJリーグ優秀選手賞と優秀新人賞をダブル受賞。'10年6月南アフリカで開催されたFIFAワールドカップ大会後、7月からイタリア1部リーグ(セリエA)のチェゼーナに移籍。その後'11年1月、ミラノに本拠地を置くインテル・ミラノへの移籍が決まり、日本だけでなく世界のサッカーファンに衝撃を与える。'18年にロシアで開催されたワールドカップでは、3大会連続となる日本代表メンバーに選出され、全4試合にフル出場し、チームの決勝トーナメント進出に貢献。その後、ガラタサライやオリンピック・マルセイユといった世界的名門クラブを渡り歩いた後、'21年、FC東京に復帰。

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¥1,650/幻冬舎
予選・本戦を含めた苦闘の歴史と舞台裏。さらに、35歳でトップレベルを維持し続けている秘訣、批判を肥やしにしてエネルギーに変えるメンタルコントロール術など、激動のサッカー人生を振り返る、集大成の一冊!

TEXT=長友佑都

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