日本サッカー史上初めて4大会連続ワールドカップ出場を目指す、長友佑都。数々の批判を受けながらも重圧に負けず、それをエネルギーに変換していく、彼のメンタルタフネスの極意とは。2022年11月に上梓した『[メンタルモンスター]になる』より一部抜粋してお届けする。第1回。
激白! 長友佑都にとってワールドカップとは何なのか
僕が感じる幸せを、人生を変えるような経験を多くの人にも感じてもらいたい。
それは偽らざる僕の本心だ。でも、あまりにそれを熱弁するものだから、(堂安)律や(久保)建英といった若い選手たちには「佑都くん、ピュアすぎます」とイジられる。
お前たちもピュアであれよ! と思うけど、彼らにもいずれわかるときが来るはずだ。本当に「人生が変わる」と感じる瞬間があることが。
ただ、FIFAワールドカップを経験できるのはサッカー選手だけだ。
例えばこの本(『[メンタルモンスター]になる』)を手に取ってくれたみなさんに、ワールドカップを目指せば成長できるし、幸せですよ、と言ってもピンとこないかもしれない。
だから多くの人には、僕にとってのワールドカップのような存在を、それぞれの人生の中で見つけてもらいたい。
じゃあ、それってどんなものなのか。僕がワールドカップを「人生を変える」ほどのものだと思える理由は、主に3つある。
ひとつ目は、当たり前ではあるけれど、世界中から注目を浴びる大会であること。
ヨーロッパでプレーをしているとよくわかるけれど、ワールドカップは別格の存在だ。それくらい、ヨーロッパでプレーする選手やスタッフ、サポーター……誰もが楽しみにしていることを肌で感じた。
インテル時代、チームメイトだったコロンビア代表のグアリンが、日本と同組になったことを知って、僕にこう言ってきた。
「8点取るから」
彼とは「相撲」を模したゴールパフォーマンスを一緒にするなど、本当にいい仲だったけど、その冗談の中に本気が混じっていた。チームメイトでも負けないよ、という選手たちがかける思いがそこにある。
実際、その視聴者数はオリンピックをしのぐと言われている。ロシア大会の決勝は、世界で11億2000万人が視聴したそうだ。あまりにすごすぎて、ピンとこない数字だけど、多くの人に注目される偉大な大会であることは、僕を惹きつけてやまない理由のひとつだ。
もうひとつがそのプレッシャーが想像できること。
そんなものを感じて何が楽しいのか、と言われそうだけれど、実際、「楽ラク」なものではない。苦しみやつらさが伴う経験になる。ただ、それを乗り越えた先にある自分は、まったく違う姿をしているだろう、というワクワクが勝る。
三つ目が、その大きな大会で僕が輝けば、多くの仲間に恩返しができること。
仲間とは、自分が苦しいときに支えてくれた存在だ。これまでの僕を支えてきてくれた人たち、家族はもちろん、トレーナーや所属チームのスタッフ、友人、仕事仲間。
僕がいいプレーをすることで、その仲間たちにスポットライトが当たる。いや、僕が輝くことができれば「当てる」ことができる。そして、仲間が喜んでくれる姿を見るときほど、幸せを感じる瞬間はない。
「仲間」の幸せは、自分の喜びや達成感に勝る最大の僕の幸せなのだ。
注目されること、プレッシャーがあること、そしてそこで自身が活躍することで人に光を当てられること。この三つが揃っていたのが、「ワールドカップ」で、僕の「人生を変える経験」となった。
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Yuto Nagatomo
1986年9月12日生まれ。明治大学在学中の2006年に選出された全日本大学選抜にて注目を集め、プロ1年目となる'08年にはFC東京でJリーグ優秀選手賞と優秀新人賞をダブル受賞。'10年6月南アフリカで開催されたFIFAワールドカップ大会後、7月からイタリア1部リーグ(セリエA)のチェゼーナに移籍。その後'11年1月、ミラノに本拠地を置くインテル・ミラノへの移籍が決まり、日本だけでなく世界のサッカーファンに衝撃を与える。'18年にロシアで開催されたワールドカップでは、3大会連続となる日本代表メンバーに選出され、全4試合にフル出場し、チームの決勝トーナメント進出に貢献。その後、ガラタサライやオリンピック・マルセイユといった世界的名門クラブを渡り歩いた後、'21年、FC東京に復帰。