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2022.10.30

てぃ先生「保育士にも一軍・二軍があっていい」ブラックな保育業界の根底にあるもの

現役保育士にして人気YouTuber、育児アドバイザーとして、幅広く活動しているてぃ先生。近年は、顧問保育士として全国の保育園などでアドバイスも行っている。保育業界の底上げを目指すてぃ先生が指摘する問題点、そして、解決策とは!? 【特集 仕事に効くYouTube】

保育士として、SNS総フォロワー数日本一を誇るてぃ先生。

保育士として、SNS総フォロワー数日本一を誇るてぃ先生。

保育業界の問題は、お金がないこと

2020年に厚労省が発表した『保育士の現状と主な取組』によると、保育所及び幼保連携型認定こども園への就職者数は、2016年度をピークに微減傾向にあり、2016~18年の離職率は9.5%前後。とくに、保育士経験2年未満(常勤のみ)の者の離職率は15.5%、2~4年未満は13.3%と高いのが目立つ。退職理由の第2位は「給料が安い」、第3位は「仕事量が多い」、第4位は「労働時間が長い」(1位は職場の人間関係)からも推測されるように、業界の労働環境はブラック体質といえる。

実際、保育士の給与がどのくらいかというと、正社員保育士の平均年収は約374万円(厚生労働省2020年度「賃金構造基本統計調査」)。待機児童問題解消のために、近年、保育士の賃金引上げが積極的に行われてはいるものの、十分な額にはほど遠いのが現状だ。保育士の一斉退職が毎年のように報じられるなど、問題は根深い。

「保育業界の問題は、とてもシンプル。“お金がない”、これに尽きます。みんな、保育士の給料が安いことをわかった上で仕事をしているんですよ。でも、支払われる額と負担の大きさがあまりにも見合っていないから、不満が出てしまう」と、てぃ先生は指摘する。

負担が大きいのは、業務効率化が進んでいないことに加え、ひとりの保育士が抱える業務量が多過ぎるのも原因だ。厚労省が、保育園・保育施設運営にあたって定めた「配置基準」によると、0歳児は3人につき保育士ひとり、1~2歳児は6人につき保育士ひとり、3歳児は20人につき保育士ひとりを置くことになっているが、この設定に問題があるという。

「一昔前までは『一斉保育』という全体を一気に動かす保育だったから、この基準でもギリギリできていたんです。でも今は、『自由保育』という子どもの主体性や個々をより大事にする保育へ変わってきたので、無理が生じています。ひとりひとりの興味・関心に合わせた遊びを、それぞれの子どもに提供するのは、この配置人数では無理。人を雇えば解決する問題ですが、それには、お金がかかる。やっぱりお金の問題ですね。日本は、子どもの教育にかける公的資金が、世界的にみても少なく、OECDの調査でも下から数えた方が早いくらいですから」

日本の保育業界について語るてぃ先生

妊娠や出産で退職する保育士が多いため、年齢構成でみると、20代後半から30代の従事者の少なさが目立つ。現場は、20代前半と、40代以降の保育士が中心といういびつな構造も、保育業界が抱える問題のひとつだ。「年配の先生が悪いと言っているわけではありませんが、数が多いため、発言力が強くなりがちです。若い先生たちは、そこにも疑問を抱いています」

子どもにお金をかけない日本は、世界で勝てない

てぃ先生の指摘通り、OECDの発表によると、日本は、初等教育から高等教育の公的支出のGDPに占める割合が、2017年は38ヵ国中37位、2018年度は37ヵ国中30位と、底辺をさまよっている。日本は、教育後進国なのだ。

「子どもに投資すると言いながら、まったくしていませんよね。日本の教育は、悪いとは言わないけれど、良いとも言い難い。そのなかで育った子どもたちが、10年後、20年後、社会に出ていくわけです。教育が良くないのだから、日本が世界で勝つことなんてできませんよね」

保育業界にもっと資金を投じれば、保育士の離職が抑えられ、人員不足による職場環境の悪化も食い止められる。それは、質の高い保育につながり、子どもたちにとっても有益だ。

「極端な話、保育士の給料が上がれば、東大を卒業して保育士になる人が出てくるかもしれません。高学歴がいいと言っているわけではありませんが、畑違いの優秀な人たちが集まってくれば、そこで育つ子どもたちにとっても、良い刺激になるんじゃないかと思います」

もっとも人員不足の問題は、「近い将来、ネガティブな理由で解決される気がします」とも、てぃ先生。現在は、待機児童解消を目的に保育園がどんどんつくられているが、少子化がさらに進めば、保育園の数は減少に転じる。となれば、必要とされる保育士の数が減り、「保育士が選ばれる側になる」というのだ。

「僕は、この状況を悪いとは思っていなくて、むしろチャンスな気がしています。プロ野球チームに一軍、二軍があるように、保育士も、実力に差が大きくあるわけですよ。1年目でもすごく活躍する保育士は重宝されて、それなりの待遇を用意するとか。保育士ってすごい職業だねってなれば、自然とお給料の底上げもされるでしょうし」

金銭面以外にも、連絡帳や季節ごとの室内装飾など、保育士の手作業が多いといった業務効率の悪さや、妊娠・出産による離職で20代後半から30代の層が薄いといった保育士の年齢構成のいびつさなど、問題は多数ある。てぃ先生は、講演やSNSなどを通じて、こうした問題を指摘し、解決のための提案を実施。保育現場の環境や保育士の待遇改善によって、そこで働く人、過ごす子ども、預ける親の“三方よし”を目指す。

「一旦のわかりやすい目標は、子育て界の“こんまり”(近藤麻理恵氏)になれたらいいですね。片づけが世界の垣根を超えたように、子育ても、日本のママパパだけでなく、海外の悩んでいるお父さんお母さんや子どもたちにも役立つはずですから。でも、まずは身近な人たちの助けになれればいいなと思っています」

てぃ先生が仕かける、親も子どもも幸せになれる子育て、そして保育業界の改革に、これからも注目したい。

■てぃ先生が子育ての悩みを解決! 番外編へ続く

■前編はこちら

てぃ先生
1987年東京都生まれ。保育士資格・幼稚園教諭二種免許状・介護福祉士取得。保育士歴14年。関東の保育園に勤務する傍ら、てぃ先生としてSNSやテレビ、ラジオなどメディアなどでも活動。現在、「ハロー!ちびっこモンスター」(NHK Eテレ)にレギュラーで、ラジオ番組などでも準レギュラーとして出演している。『てぃ先生の子育て○×図鑑』ほか、著書多数。

【特集 仕事に効くYouTube】

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=伊藤香織

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