未就学児を持つ親や保育士・幼稚園教諭など、子育てに関わる人たちの間で絶大な人気を誇る保育士YouTuber「てぃ先生」。現役保育士である彼が、なぜ、ここまで支持され、注目されるのか。その理由を紐解くべく、YouTubeでの活動と仕事術について語ってもらった。【特集 仕事に効くYouTube】
子育て、子ども、保育に関するポジティブな情報を発信したい
YouTubeの登録者数72万人超、Twitterのフォロワー数58万人、インスタフォロワー数17万人と、SNS総フォロワー数が、保育士として日本一を誇るてぃ先生(2022年9月現在)。テレビやラジオ、雑誌などメディアへの露出、年間50本以上の講演会と活動の場を広げ、2022年9月には芸能事務所アミューズとマネジメント契約を締結。関東の保育園に勤務しつつ、「顧問保育士」として全国の保育園にアドバイスを行うなど、八面六臂の活躍を見せる。
てぃ先生が、SNSでの活動をスタートしたのは、2012年秋、Twitterでのこと。保育園で遭遇した、子どもたちの微笑ましく、かわいらしい言動をつぶやいたところ、大反響。そのエピソードをまとめた著書は20万部を超える大ヒットとなった。もっとも本人は、有名になりたくてSNSを始めたわけではないとキッパリ。
「報道などで目にする子育てや子ども、保育の情報は、ネガティブなものが大半です。僕自身、保育士をしていて大変だと思うことはたくさんありますし、辞めたいと思ったことは何百回もあります。でも、子どもは本当にかわいくて、楽しい存在。子育て、子ども、保育という3つのキーワードに関して、もっとポジティブな情報を発信するコンテンツがあってもいいのではないかと思ったのがきっかけです」
140文字以内の発信というTwitterと、スクロールするだけでいいインスタ、映像と音声で細かいニュアンスも伝えられるYouTube。それぞれ特徴が異なるため、ユーザー層も若干違う。少しでも多くの親に情報を届けたいという想いで、現在はこの3つを活用している。
「テレビやラジオ、雑誌などメディアの仕事を受けているのも、“てぃ先生が発信する情報”という存在を知っていただくためです。僕という存在を知って初めて、僕が発信する情報にアクセスしていただけるわけですから。極端な話、てぃ先生が有名にならなくても、僕が発信する子育てや保育に関する情報が広まってくれれば、それでいいんです」
現場に立っているからこそ、情報の信頼性が増す
活躍の場がどんなに広がろうとも、てぃ先生は”現役保育士“であることにこだわり、保育園に勤務し続けている。その理由をたずねると、「現場に立っていない人間が意見を言うことに違和感があるので」という答えが返ってきた。
今や百花繚乱の感があるYouTubeの世界。なかには、他人の受け売りや聞きかじり、本に書いてあることをそのまま発信するチャンネルもある。けれど、てぃ先生は、自分が実践し、効果があった方法、役立つと感じられたものだけを発信したいと言う。
「あくまでも個人的な意見ですが、『こういうのがあるらしいよ』という発信は、無責任だと思います。本や論文から得た方法も、自分で思いついたやり方も、実際に試して、うまくいったものだけを発信したい。もちろん、その方法が、どんな子どもにもハマるとは限りませんが、それでも、やらずに発信するより、ずっといいと思っています」
現役であることに加え、てぃ先生が大切にしているのが、エビデンスに基づいた情報を発信すること。
「子どもがかわいそうだからこうしましょう、親が罪悪感を覚えるからこうしましょうという、感情論の子育てや保育って、僕は好きじゃないんです。感情というのは個人差が大きくて、人によって変わってしまうものだから。それより、長年の研究や脳科学など、根拠に基づいた情報の方が、受ける側も安心できると思います。とくにパパたちは、エビデンスのある話でないと受け入れない方が多いと感じています」
忙しい今も、1日平均3冊ペースで、子育てや保育に関する論文や本に目を通すのは、そうした信念から。海外の論文も、日本よりずっと研究が進んでいるため、翻訳機能を利用しながら読んでいるそうだ。
「マシュマロ・テスト(※)ってご存じですか? 子どもの自制心と将来の社会的成功に関連があることを示した児童心理学の実験で、日本ではいまだに支持されていますが、世界では、その相関関係は成り立たないというのが主流なんですよ。日本の情報にしか触れていないと、こうした事実にも気づけないと思います。
それと、自分が”心地よいと思えない”本を積極的に選ぶようにもしています。自分の価値観に合うものばかりでは、知識も広がらないし、視野も狭まってしまうので」
※1960年代から70年代に米国・スタンフォード大のミシェル・ワルタ氏が、4歳児を対象に実施した、「より多くのマシュマロをもらうために、目の前にあるマシュマロを食べることを15分間我慢する」という、子どもの自制心を調べる心理テスト。追跡調査の結果、自制心のある子供は、ない子どもより、SAT(大学進学適性試験)の成績が優秀など、社会的成功と関連があるとされたが、2018年の再現実験で、相関関係が否定された。
忙しいママパパの時間を奪わない
「短く、簡潔に」というのも、てぃ先生が情報発信で心がけていることのひとつ。未就学児の親の日常は慌ただしい。YouTubeを観る時間を確保するのも、ひと苦労だ。そのため、どれだけコンパクトに情報を届けられるか、試行錯誤を重ねてきた。
同じ内容を伝えるのにも、短く、わかりやすい言葉を選び、不要な話は入れない。「えー」「あ~」といった無駄な言葉を挟まないようにと、あらかじめ台本を作成し、スピーチプロンプターに写して読み上げるなど、1秒でも短くすることに注力している。また、サムネイルを見れば内容がわかるよう、タイトルも工夫。「子どもが寝ている横で、音を消して観ています」というコメントを見て、テロップを入れるようにするなど、視聴者目線を一番に考え、発信しているのだ。
それでも、注目されればされるほど、アンチが生まれるのは世の常。てぃ先生の発信に、「保育園でのことしか知らないのに」「親になったことがないくせに」いうコメントが寄せられることもある。それに対して、「確かに僕は、保育園の中での子どもたちしか知りません。でも、世の中の多くの方は、家の中の子どもしか知らないですよね。お互い様の部分もありますし、だからこそ相互での情報のやり取りに価値があると思います」と、てぃ先生。
保育士は、キャリアの中で、何十人、何百人もの子どもたちに接している。サンプル数が多い分、「こういうタイプの子にはこの方法が合いやすい」「こんな時はあれ」と、いろいろな解決策を持っているわけだ。保育士たちが得たおすすめの方法の中から、あれこれ試し、我が子に効果のあるものを見つけられれば、親子ともにハッピー。そう思うからこそ、てぃ先生は、情報を発信し続ける。
「子育てに正解はありませんよね。親は家庭で、保育士は保育園でと、子どものことを一番理解している人が、それぞれの場所でベストな対応ができれば、それでいいんじゃないかと思います」
使命感のもと、高いプロ意識をもって子育て情報を発信しているてぃ先生。後編では、日本の保育業界が抱える問題について、語ってもらおう。
■後編へ続く
子育て世代を救った! 「てぃ先生」人気動画BEST3(2022年9月時点)
1:子どもに聞く「自分がされたらどう思う? 」は効果なし!? もっと響く言葉
この言葉の意味を、未就学児はきちんと理解できないという事実に驚愕! では、どんな言葉なら効果があるのか。「えっ、それだけ!? 」と思うような簡単な言い換えで、子供の想像力にアプローチし、「それなら、やらないようにしよう」と思わせることができるとか。てぃ先生の真骨頂に触れられるので、必見!
2:みんなのトラウマ「置いてっちゃうからね! 」のヤバさと対処法を解説
口にしてはいけないと思いつつ、絶大な効果ゆえに多用してしまう定番フレーズが、実はWバインドだったとは……。将来的に「数えきれないほどのデメリットがある」理由について、精神医学をベースに解説。最後に、キュートな笑顔で口にする「ママパパは、ご自身の幸せにも目を向けて」という言葉にも癒される。
3:子どもを叱る前に【これを言うだけで】きちんと聞いてくれるようになる
保育士や幼稚園教諭といったプロが活用している声かけを伝授。どんなに言葉を尽くそうとも、“耳を開いている”状態でないと、心に響かない。子どもの“ふさいでいる耳”を開くために、やるべきことは非常にシンプル。しかも、親が抱いている怒りを鎮める効果も。子どもだけでなく、職場の部下にも使えるかも!?