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2022.09.23

水産業界は伸びしろだらけ! 「魚屋の森さん」が仕掛けるデジタルシフト

魚のさばき方やおすすめの調理方法、各地の市場や漁場、魚食文化などを紹介する人気YouTubeチャンネル『魚屋の森さん』。魚離れが進み、深刻な状況に陥っている水産業界を救うべく奮闘する魚屋二代目・森 朝奈さんに仕事に対する熱い想いを語ってもらった。#1 #2 【特集 仕事に効くYouTube】

YouTubeチャンネル「魚屋の森さん」

YouTubeは情報収集もできるツール

YouTubeやSNSは、魚と「寿商店」のファンを増やすためのツールであり、魚と消費者をつなぐのが自分の役割。そう明確に位置づけたことが功を奏し、YouTubeチャンネル『魚屋の森さん』は、魚好きが集うプラットフォームになりつつある。そこには、「うちの地元ではこんな魚が獲れます」「昔から、こんな風に食べています」といった、魚好きやプロたちからの有意義かつ興味深い情報が集まってくる。

「教えていただいた漁港を実際に訪ねたり、おすすめのお店にうかがったり、おかげさまで知見が深まりました。漁場や生産者を訪ねることで『この魚の値段が高いのは、裏にこんな苦労があるからだ』と、バックグラウンドやストーリーがわかるようになりましたし、私たち魚屋が商売できるのは、漁師さんがいるからだということを改めて実感できました。

釣りでよく釣れる魚の調理方法を質問されたのがきっかけで、釣りも始めたんです。自分が体験していないと、きちんとお答えできないなと思って」

YouTubeでも人気の、魚関連のプロたちとのつながりもできるなど、魚好きの輪が広まっているだけでなく、地方の自治体や企業から視察やプロジェクト参加の声がかかることも増えてきた。現地の視察や会議に参加することで、水産業界全体が抱える問題や課題がさらに見えてきたという。

「興味も経験もあるジャンルで、新たな勉強をする機会をいただけるのは、ありがたいですね。業界全体の仕組みやからくりがわかるようになったことで、自分なりに問題の改善策を考えたり、水産業界が盛り上がるような仕掛けを練ったりと、活動の幅も広がりました。

この業界は、デジタルになじみがなく、苦手意識のある方がまだまだいらっしゃいます。でもこれからの時代、モノや情報にあふれ、我々の業界でもデジタルシフト(特にオムニチャネル化)していかないと、“価値”が伝わりにくいのではと感じています。なので、自分と同じ魚食推進の目的や意欲をもつ方であればうまく組んで、そうした方々の経験や技術をさまざまな視点から発信し、付加価値を生み出していくことで水産業界を盛り上げられればいいなと思っています」

YouTubeチャンネル「魚屋の森さん」

水産業界は“伸びしろ”だらけ!

意欲に燃え、責任感も強い森さんだけに、その一日は超ハードだ。朝5時から9時頃までは、市場での仕入れや魚の下処理といった“魚屋の仕事”をし、その後昼までは事務処理をこなし、午後は、商談や会合などに出席。週末は主にYouTubeの撮影にあてるなど、プライベートはほぼ皆無。

「自分が手足を動かさないと何も変わりませんからね。プレッシャーやストレスはもちろんありますが、それがないと張り合いがなくなりそう。きっと仕事人間なんだと思います」

そう笑った後、森さんは「でも、会社を辞めることを考えたこともあります」と打ち明ける。

「デジタルと無縁だった寿商店にシステム導入を進めた当初は、社長である父や古参(こさん)の社員さんとの摩擦が大きく、価値観や考え方の違いを突き付けられるなどストレスの続くことも多く、長い年月をかけて導入に成功しました。その時は、プライベートと仕事とで自分の時間の使い方に悩みましたし、この業界に合わないのではないかと思ったこともあります。

また、コロナで緊急事態宣言期間が続いた時は、ルールにのっとりお店を営業していても嫌厭(けんえん)されることもあり、飲食業はもう必要とされていないのではないかと落ち込みました。コロナで過去にない赤字となり、会社を守るために始めたばかりのYouTubeやEC事業を必死に頑張りましたが、YouTubeでは個人の仕事ばかりが増える一方、お店は休業や時短がつづき、一向に社員たちが活躍できる場が提供できていないことやYouTube経由でのストーカートラブルなどにもストレスを感じ、お店に迷惑をかけるなら退職したほうが会社のためなのではないかと考えたこともあります」

それでも今、“魚屋の森さん”を続けているのは「跡を継ぐという覚悟がぶれたことはないから」。

「いろいろ悩みましたが、先代のやってきたことをそのまま受け継ぐだけが、事業継承ではないんですよね。父は、効率化よりも、歴史や想いを大切にする人間で、私はそんな父が大好き。

でも会社の成長に合わせてトラブルや課題が増えるのも事実でした。そんな時に、事業展開や仕組みを思い切って変えることは事業継承として正しいのかと悩みましたが、父と二人三脚でさまざまな苦労や経験をするなかで、どんな形で引き継ぐかより、父のその想い、そして『魚が好き』という気持ちを覚悟をもって継承することこそが継承だ、思うようになりました。

日本は水産国家なので、魚の供給は、他の食物に比べれば比較的安定しています。何より、魚には大きな魅力があるのですから、魚好きがもっと増える可能性を秘めていますし、そうすれば、水産業界全体がもっと盛り上がるはず。まだまだ伸びしろのある業界なんです。そのためにも、YouTubeやSNSなどを活用しながら、生産者の想いを消費者に伝え、両者をつなげる役割を、これからも果たしていきたいと思います」

 

魚屋の森さんイチオシYouTubeチャンネル3選

1.エガちゃんねる EGA-CHANNEL

2.さかなクンちゃんねる - FISH BOY - Sakana-kun

3.きまぐれクックKimagure Cook

■「魚好きを増やすため」魚屋二代目がSNSで業界革命を起こす(vol.1)
■YouTube「魚屋の森さん」が、未来の水産業界を支える!(vol.2)

YouTubeチャンネル「魚屋の森さん」

Asana Mori
1986年愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、楽天に入社した後、寿商店にアルバイトとして入社。現在は常務取締役として、魚の仕入れや下処理、加工、取引先への卸し、飲食店の経営などに従事。YouTubeをはじめ、ツイッターやインスタなども駆使し、オンラインショップ運営にも携わる。「おまかせ鮮魚BOX」という、旬の魚を手頃な価格で購入できるセットはコロナ禍でも大ヒット。森さんの入社前は2店舗だった飲食店も、森さんプロデュースのフィッシュバーガー専門店「サカナノバーガー」ブランドなど、現在フランチャイズ店舗ふくめて14店舗に増えた。著書『共感ベース思考 IT企業を辞めて魚屋さんになった私の商いの心得』も好評。

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=彦坂栄治

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