魚のさばき方やおすすめの調理方法、各地の市場や漁場、魚食文化などを紹介する人気YouTubeチャンネル『魚屋の森さん』。魚離れが進み、深刻な状況に陥っている水産業界を救うべく奮闘する魚屋二代目・森 朝奈さんにとってYouTubeとは? #1 【特集 仕事に効くYouTube】
“魚屋らしくない”からこそ、視聴者の共感を呼ぶ
2020年3月、覚悟を決めてYouTubeを開設し、以降ナビゲーターとしてカメラの前に立っている森さん。
「寿商店には、父をはじめ、私よりずっと魚を上手にくさばける職人さんたちもたくさんいます。そんななかで、あえて私自身が魚をさばき、調理する姿をお見せしているのは、『あの人にできるなら、自分にもできそう』と思っていただきたいからです。
“魚屋”と聞いてイメージしやすいたくましい身体の経験豊富そうな男性よりも、女性の私が魚をさばく。そして、長年この業界にいる人たちよりわかりやすい言葉で説明することで、視聴者の方々に共感していただけるのではないかと考えました」
YouTubeの配信スタートから数ヵ月後、緊急事態宣言が解除され、店を再開した時に、それを実感する出来事があった。動画のファンだという親子が来店し、母親から「うちの子は、これまでお魚は全然食べなかったのに『魚屋の森さん』を観ていたら、食べたいといったので買いに来たんです」と聞いたのだ。そこで湧き上がってきたのが「対面の魚屋は減っているけれど、YouTubeがその代わりを果たせるのではないか」という想いだ。
「私がYouTubeでやっていることって、魚屋がお店でお客様にしていることと同じなんですよね。『この魚は、こう調理するとおいしいですよ』『下処理の秘訣はこうですよ』『魚はこんなに魅力的なんですよ』って。
時代は変わって対面の魚屋は減っていますし、コロナでお客様と触れる機会も減ってしまった。でも今はSNSやネットを通じて、同じことを、広い範囲に発信できます。対面だと、目の前の人にしか伝えられないけれど、ネットを介すれば、さまざまな場所にいる、より多くの人に伝えられることができるわけです。
つまりYouTubeは、魚を好きになってもらうためにまずは魚に興味をもってもらうという“入口”の役割を果たしてもらい、そして“出口”として私たちが携わる魚に関連するビジネス、さらには、さまざまな課題のある水産業界の未来につなげられるのではないかと」
一度WEB上にアップしたものは半永久的に残る。つまり、遠い未来に生きる人々の目に触れる可能性もあるということ。森さんが今、発信している魚の魅力が、未来の水産業界を支える一助になるかもしれない。
動画1本だけでも「わかる・楽しめる」ものを意識
ツイッターやフェイスブックは以前から活用していたものの、動画となると勝手が異なる。魚のさばき方ひとつとっても、それまでは人目を気にせず、自己流だったが、「手順は正しいか」「説明の仕方はわかりやすいか」「まな板など調理器具はきれいか」など、細かいところに気を配るようになったという。編集に関しても、書き込まれるコメントや周囲の反応を参考にしながら、少しずつ改善を重ねていった。
「YouTubeは、初回から順を追って観るものではないので、1本観ればわかるものを心がけています。毎回、オープニング動画で、私が“魚屋の森さんこと、森家の長女”で、社長が父、撮影は主に妹が担当していることを紹介したり、テロップを活用したりするのは、初めて観てくださった方にもわかりやすくするためです。
また、魚を好きになっていただくためには、一度だけでなく、何度も観ていただくことが大切。どんな内容や企画に需要があるのか、自分のチャンネルの再生回数や反響、人気YouTuberさんのチャンネルなどを参考にしながら、企画を考えています」
■「魚好きを増やすため」魚屋二代目がSNSで業界革命を起こす(vol.1)
■水産業界は伸びしろだらけ! 「魚屋の森さん」が仕掛けるデジタルシフト(vol.3)