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2022.09.20

"人を傷つけない"性教育YouTuberであるために。シオリーヌの超絶仕事術

2019年にYouTubeを開設し、淡々と"普通"に性を話題にすることで、若い世代から支持を集めている性教育YouTuberのシオリーヌさん。彼女がYouTuberとして成功した背景には、多彩な経歴に裏打ちされた、どこまでの深い想像力とエンタメ精神があった。【特集 仕事に効くYouTube】

性教育YouTuberシオリーヌ

日本初の性教育YouTuberのシオリーヌ。企業や教育の場での講演活動、秋には新刊を2冊上梓するなど多方面から注目を浴びる。

アマチュア芸人、塾講師。学生時代に培ったYouTuberの素地

取材班がシオリーヌさんの自宅を訪ね、YouTube製作に使う実際の機器を見せてもらったところ、正直、想像以上に“簡単で普通のもの”であった。

「使っているのはMac Book Airとスタンドに立てたスマートフォン。顔を明るくするリングライトぐらい。編集ソフトはFinal Cutです」

不特定多数の人間に素顔を晒し、性を語ることについて、ためらいはなかったのだろうか。

「YouTubeを始めるのに勇気がいりませんでしたか?ってよく聞かれるんです。たしかに顔を出して性の話をするからとても心配されたのですが、不安よりも、やってみたいという気持ちのほうが勝っていました」

多少なりともリスクがある世界に飛びこめる度胸には、意外な経歴による裏打ちがある。

「高校生のとき、アマチュアのお笑い芸人をしていたんです。吉本興業が主催していた、高校生向けのM-1のような大会(ハイスクールマンザイ)に出て、その延長線上で吉本が主催するライブに出させてもらったこともあります。人前で話すのは学生の頃から好きだったんです。他にバンドもやっていたし、よさこいも踊ったし、エンタメ的な活動はずっとやっていましたね。人に楽しんでもらうとか、人の前で何かを表現することが好きだったのだと思います」

シオリーヌと夫のつくしさん

現在、子育てをしながらYouTubeを製作。2年前に結婚した夫で看護師のつくしさん(左)が登場することも。「乳児を抱えながらこれだけ仕事ができるのも、夫あってのことと、つねに感謝をしています」。

視聴者を傷つけないYouTuberであるために

シオリーヌさんのコンテンツを見ていると、言葉の選び方ひとつひとつに配慮があり、それでいて、テンポのよい喋りで、飽きることなく視聴できることに驚く。性教育という専門知識が求められ、かつセンシティブな題材ながら、"普通のこと"として耳に入ってくる心地よさと、見続けてもらう“しゃべり”を作り出すために、台本も相当練っているのでは?と思いきや。

「台本は作っていません。話し始める前に、頭の中で箇条書きを作る程度ですね。YouTubeは編集ができるので、話しながら伝え方を考えていくような感じです」

このプロ顔負けのしゃべりの根底には、大学時代の4年間、個別指導の塾の先生をやっていた経験が生きているのかも、とシオリーヌさん。

「思春期の学生にどうやったら伝わるのか、どうしたら興味を抱いてもらえるのか、というのはずっと考えていました。今、心がけているのは真面目に話し続けるのでなく、少しクスッと笑ってもらうところを作ること。ただ扱っている内容が性や人の権利に関わることなので、少し間違えると差別的に聞こえたり、下ネタやちゃかしに思われてしまう。そのバランス感覚を養っていく必要があると感じています。講演など、動画のようにカットができない場では、素直に『今の表現はよくなかったかもしれません』と必ず言い直します」

配信に慣れた今も、毎日が試行錯誤。ナーバスな話題のなかで、人を傷つけない発信をするためにできることは。

「大切なのは、あらゆる立場の人を想像することかなと思います。この言葉を使うことで嫌な思いをする人がいるかな?と、一瞬考える。この表現で嫌な気持ちになる人はどんな立場の人かな?と。自分に悪意はなかったとしても、差別だと感じたり嫌な気持ちになる人はいないか、つねに想像しながら話すようにしています」

あらゆる立場を想像する。それが最も難しいことではないだろうか。でもそこには、シオリーヌさんの助産師、看護師としての経験が役立っているという。

「社会人3年目まで助産師として産婦人科病棟で働き、その後2年半は看護師として精神科の思春期病棟で働いていました。その経験が大きいのかもしれません。来院される多くの患者さんとお話をしていると、自分が経てきた経験とはまったく違う歩みで今があることがわかる。私が想像し得ない出来事や悩みを聞くうちに、自分が見えている世界ってすごく狭いんだと痛感しました。だから自分が思っていることが必ず正しいとは思わないし、見えている世界がすべてだとも思わない。だからこそ、想像する努力をすることが大切だと思います」

性教育YouTuberシオリーヌ

どんな人にも、自分のことは自分で決める権利があるとシオリーヌさん。「助産師の姿勢とも共通することなのですが、助産師は目の前にいる患者さんを全力でサポートするだけ。何かを選ばなきゃいけないとき、選ぶのは情報を受け取る本人なんです。だからYouTubeでも、こういう選択肢を選んだ時はこういうことが起こりますと説明はしますが、私が意思決定を誘導することはしないようにしています」。

どんなアダルトコンテンツよりも、自身のコンテンツを上位に

YouTubeと並行し、講演活動は続いている。さらに本の執筆やコンテンツの監修など、ありがたいことに仕事がどんどん広がってきているという。

「PR案件の依頼に関しては、自分がこれはいい、これはやりたいと思うものしかお受けしていません。ちょうど今、出産してひと月経ったんですが、『うちの商品を使って、産後ダイエットを試みてください』という依頼が来たんです。こんなにも身体がしんどく、自分のことさえする時間がない辛い時期に、なんでダイエットまでしなきゃいけないんだ!とお断りさせていただきました。産後ダイエットとか、デリケートゾーンを白くする化粧品とか、人にプレッシャーをかける商品をおすすめしたくないんです」

今後、シオリーヌさんがYouTubeを通じて行っていきたいこととは。

「よく『今はもう助産師の仕事は辞めてしまわれたんですね』と言われるんですが、私としては今のYouTuberとしての活動、講演活動などすべてが助産師としてやっていることだと思っています」

日本で助産師というと「お産の介助と産前産後のケア、おっぱいケアだけをする人と思われがちだけれど、専門性はそれだけではない」とシオリーヌさんは言う。

「ユースクリニックってご存知ですか? スウェーデンで根づいている施設ですが、地域ごとに若い世代が心や身体、性の悩みを無料で気軽に相談できる場所が設置されているんです。そのユースのサポートをする専門家が、海外では助産師。日本でも少しずつ助産師をユース支援で活躍できる人材にしようという認識が起き始め、日本助産師会で性教育の研修会も始まっています」

性教育ができる助産師を育成しようと世の中が変わってきたのは、シオリーヌさんがYouTube開設で目指してきたことのひとつだ。

「だから私自身も、助産師という立場でYouTubeや講演の活動に一生懸命取り組んで、助産師の専門性を広げていくことに貢献したいと思っています。まずはYouTuberとして、性の情報を検索したときに、どんなアダルトコンテンツよりも自分のコンテンツが上位に来ることが目標です。そのためにも、いっそう努力をしていかなくてはならないと思っています」

■シオリーヌさんのチャンネルはこちら!

【「もっと普通に話そう」性教育後進国・日本に切り込むYouTuberシオリーヌとは?】(Vol.1)
【一体どうすべき!? 性教育の悩み。シオリーヌの考えとは?(Vol.3)】

シオリーヌ
性教育YouTuber。本名:大貫詩織。1991年神奈川県生まれ。助産師、思春期保健相談士。総合病院産婦人科にて勤務、その後精神科児童思春期病棟で若者の心理的ケアを学ぶ。全国の学校や地域のイベントで性に関する講演活動も行う。2019年からYouTubeを開設。著書に『こどもジェンダー』などがある。

【特集 仕事に効くYouTube】

TEXT=今井 恵

PHOTOGRAPH=田中駿伍(MAETTICO)

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