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2022.08.15

元外交官トップ・佐々江賢一郎の超交渉術。6つの掟とは【まとめ】

外交官のトップである外務事務次官を務め、さらには駐米大使としても活躍した敏腕外交官・佐々江賢一郎氏。言語も文化も歴史も異なる各国の外交官と相対し、数多くの困難な交渉をまとめてきた佐々江氏の交渉術を解き明かす連載「元外交官トップ・佐々江賢一郎の超交渉術」をまとめて振り返る。ビジネスシーンでも役立つこと間違いなしの交渉術は必読だ。

1.相手の話す言葉には価値観や人生観が投影されている

コミュニケーションは、基本的に双方通行なものです。だから、大事なことは話すこと以上に、相手の話をよく聞くこと。相手は何を考えているのか。相手はどういう人なのか。余計な先入観なしに相手を理解し、相手の立場に身を置いてみる。よいコミュニケーションをするには、その意識が大切です。

外交官のコミュニケーションで重要なのは、耳、頭、口の順番だと私はよく言います。これは外交官に限らず、いろいろな場でも同じだと思います。まずは聞く。それから考える。そして、話す。

人の話というのは、価値観や人生観を投影するものです。どんなことに関心を持っているのかだけでなく、何を大切にしているのかにも、気づくことができる。

外交の世界では、特に全人格的に相手を理解することが、極めて重要になります。というのも、コミュニケーションは一度では終わらないからです。継続的にお付き合いすることが多いですから、より深く相手を知っておくことが意味を持つ。

そうすることで、どんな考えなら相手に受け入れられるか。どんな主張なら相手に受け入れられやすいかも、考えることができるわけです。

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2.交渉相手について調べた情報を出すのは半分まで

交渉やコミュニケーションにおいては、相手を知ることが重要になりますが、そのために必要なことが準備です。

まずやるべきは、調べること。経歴、思想、過去にどんな発言をしてきたのか、さらには趣味のような個人レベルの話も大きな意味を持つこともあります。

自分なりに想像力を持ち、相手はこういう人ではないかと考えておくのです。もちろん、これは予備知識であって、必ずしも事前に勉強したことが正しいとは限りません。

しかし、事前にある程度、相手のことを知っておくか知らないかで、コミュニケーションは大きく変わります。こういう話にはきっと花が咲く、ということもイメージしておける。話に幅や余裕を持たせることができるわけです。

ただ、難しいのは、あまりに調べ過ぎてしまうのも問題だということです。あなたのすべてを知っていますよ、ではスパイでもしているのかと思われかねない。適度に知っておくことです。それこそ、知っていても半分ほどしか出してはいけません。

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3.自分を大きく見せようとしても化けの皮は剥がれる

誰かと初めて会う。信用をもらいたいと思う。信頼されたいと思う。もちろん外交の場でも、こういうケースはあるわけですが、私が心がけていたのは、あまり頑張らないことでした。自然体で行く。自分の地でいく。

大事なことは、自分らしく行くことだと思っていました。あまり自分のまわりにガードを張り巡らさない。気楽な気持ちで向かうのです。

なんとか自分を大きく見せたほうがいいのではないか、と考える人もいますが、相手が本物の人であればあるほど、大きく見せようとしたところで化けの皮は剥がれてしまいます。実物大でいたほうがいいのです。

知ったかぶりをしないことも重要です。わからないことは無邪気に聞いたほうがいい。「それはどういうこと?」と聞くと、相手は一生懸命、話してくれたりすることもあります。

むしろ必要であれば、相手が自分を馬鹿にしない範囲で弱さを出す、自分の弱みを出す、ということも大切です。それが逆に信用につながったりもする。

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4.教養以上に大事なのは、その人の人間的な魅力

世界の要人とコミュニケーションしたり、交渉したりする。そんな仕事をするとなると、さぞや教養が求められるのではないか、と問われることがあります。

私が感じていたのは、そもそも教養とは何か、ということでした。古今東西の歴史に通じていたり、博識だったりすることは、実は教養とは違います。博識であるに越したことはありませんが、教養というのは、知識ではない。

それよりも、相手を、人々を、静かに動かす力だと私は思っています。感動させる力、と言い換えてもいい。

もちろん、ある分野については博識で、それが「芸は身を助く」的に役立つことも大いにあると思います。外交の世界でもあります。それがきっかけで、いい関係が築けたりする。しかも、思わぬ分野で、です。

私の先輩で駐米大使を務めていた人に、野球についてものすごく博識な人がいました。これは大統領はじめ、いろんなアメリカの要人に対して大いなる武器になるわけです。

首脳レベルなど上に立つ人たちと対話する外交官は、いろんな話題についていくことが求められます。特に欧米社会では、ある種の文化的な共通項がある。仕事の話はもちろんのこと、それこそ野球など仕事以外の話も出てくる。それにどのくらいキャッチアップしてフォローできるか。もちろん、できたほうがいいに決まっていますが、では、ないとダメなのかというと、そんなことはないと私は思っています。

特定の名前は秘しますが、必ずしも諸事万端に通じてなくてもいつも面白い話題を提供して、要人たちを笑わせていた総理大臣もいました。教養以上に大事なことは、その人の人間的な魅力です。

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5.小説やドラマで、その国の作法や考え方がわかる

小説はよく読みました。小学5年で両親が読んでいた山岡荘八の『徳川家康』に感動して以来です。どんな人物が歴史上に現れるのかに関心が向かい、それを書いた作家を理解するために書いたものを全部読もうとする。それが愛読書になっていく。

阿川弘之、司馬遼太郎、三島由紀夫、大江健三郎……。とにかく幅広く読みました。池波正太郎の本はほぼすべて読んでいます。藤沢周平も愛読しましたし、宮城谷昌光先生の本は中国の古い時代の壮大な叙事ドラマで、面白かった。

中国を舞台にした小説は、中国人の考え方や権力政治などは、自分たちと違う物差しで見ないといけないんだな、と思いながら読みました。外務省アジア大洋州局長時代に中国と難しい交渉をしたときなど、ずいぶん役に立ちました。

韓国や北朝鮮、ロシア、さらにはアメリカもそうですが、その国の小説や物語を読んでいると、その国の人たちが共有している作法や考え方があることに気づくことができます。

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6.交渉で最も危険なのは、うまくいき過ぎること

最も危険なのは、実は交渉がうまくいき過ぎることです。国内で高く評価されるような交渉を実現させてしまう。しかし、これは後に禍根を残すことが少なくありません。相手からすると、自分たちばかりが損な条件を飲まされたのか、と思ってしまうからです。交渉は、五分五分の決着がいいのです。

第一次世界大戦後、戦勝国が勝ち過ぎてしまい、敗戦国のドイツにしこりを残してしまいました。これが、第二次世界大戦につながっていった歴史もあります。

外交のプロフェッショナルの立場からいえば、国内でもほどほどに不満が残り、相手側にもほどほど不満が残るくらいがベストな交渉なのです。

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Kenichiro Sasae
1951年岡山県生まれ。東京大学卒業後、外務省入省。北米第二課長、北東アジア課長、内閣総理大臣秘書官、総合外交政策局審議官、経済局長、アジア大洋州局長、外務審議官、外務事務次官などを歴任する。2012年には駐アメリカ合衆国特命全権大使に就任。’18年より日本国際問題研究所の理事長を務める。

TEXT=上阪徹

PHOTOGRAPH=太田隆生

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