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2022.06.25

元外交官トップ・佐々江賢一郎「教養以上に大事なのは、その人の人間的な魅力」

外交官のトップである外務事務次官を務め、さらには駐米大使としても活躍した敏腕外交官・佐々江賢一郎氏による連載「元外交官トップ・佐々江賢一郎の超交渉術」。第4回は、ビジネスパーソンにとっても必須の“教養”について。「教養というのは知識ではない」と話す佐々江氏が考える真の“教養”とは。【過去の連載記事】

教養というのは知識ではない

世界の要人とコミュニケーションしたり、交渉したりする。そんな仕事をするとなると、さぞや教養が求められるのではないか、と問われることがあります。

私が感じていたのは、そもそも教養とは何か、ということでした。古今東西の歴史に通じていたり、博識だったりすることは、実は教養とは違います。博識であるに越したことはありませんが、教養というのは、知識ではない。

それよりも、相手を、人々を、静かに動かす力だと私は思っています。感動させる力、と言い換えてもいい。

もちろん、ある分野については博識で、それが「芸は身を助く」的に役立つことも大いにあると思います。外交の世界でもあります。それがきっかけで、いい関係が築けたりする。しかも、思わぬ分野で、です。

私の先輩で駐米大使を務めていた人に、野球についてものすごく博識な人がいました。これは大統領はじめ、いろんなアメリカの要人に対して大いなる武器になるわけです。

首脳レベルなど上に立つ人たちと対話する外交官は、いろんな話題についていくことが求められます。特に欧米社会では、ある種の文化的な共通項がある。仕事の話はもちろんのこと、それこそ野球など仕事以外の話も出てくる。それにどのくらいキャッチアップしてフォローできるか。もちろん、できたほうがいいに決まっていますが、では、ないとダメなのかというと、そんなことはないと私は思っています。

特定の名前は秘しますが、必ずしも諸事万端に通じてなくてもいつも面白い話題を提供して、要人たちを笑わせていた総理大臣もいました。教養以上に大事なことは、その人の人間的な魅力です。

教養はそのひとつであると言ったほうがいいかもしれません。もっといえば、魅力というのは、その場で作ってできるようなものではない。チャーミングであるかどうか、惹きつけられるかどうかは、人によって違う。それが教養であるとは限らない、ということです。

もっといえば魅力とは、自分で意識せずに出るもの、たくまざるものではないかと私は思っています。それこそ相手に「これが自分の魅力だ」などと言われたら、途端にその人の魅力は失せてしまうでしょう。そういう性格のものだと思います。

机について30分以上、座っていられないタイプだった

教養について、どうしてそういう考え方をしているのかというと、もともと私は怠け者だから、というのも大きいかもしれません。机について30分以上、座っていられないタイプ。長時間コツコツ勉強できないのです。ですから、できるだけ短時間で、短期に勉強して、プラクティカルに処理してきた。

仕事で読む本も、すべてを通しては読まない。初めと真ん中と終わりと目次だけを見て、想像してパラパラめくって、最も心に響くようなところを選択して読んでいったりする。けっこう、いい加減なのです。

じっくりみっちりができない。これは欠点だと自覚していて、直したいとずっと思っていましたが、ずっと治らなかった。若いときはさほどでもないと思っていましたが、ある歳からやっぱり無理をしているな、と思うようになりました。

手先の細かなことができないのです。今もコンピュータができない。すべてに手がかかります(笑)。でも、自分に合ったスタイルでやればいいのです。意外に思われるようですが、こういう肩に力の入っていない、そうできない外交官もいるのです。

局長から昇進したとき、メディアトレーニングを受けました。欧米ではメディアに出ることもありますから、取材の時間が短いときは言いたいことを3つだけ準備して言いなさい、などとアドバイスされる。

ところが、これがうまくいかなかった。ただ、唯一いいと言われたのは、緊張せずにざっくばらんに穏やかな形でやっている、それはあなたの美徳だから活かしたらいい、と。

これこれはこうでなければ、などと決めつける必要はないのです。

Kenichiro Sasae
1951年岡山県生まれ。東京大学卒業後、外務省入省。北米第二課長、北東アジア課長、内閣総理大臣秘書官、総合外交政策局審議官、経済局長、アジア大洋州局長、外務審議官、外務事務次官などを歴任する。2012年には駐アメリカ合衆国特命全権大使に就任。’18年より日本国際問題研究所の理事長を務める。

【連載 元外交官トップ・佐々江賢一郎の超交渉術】

TEXT=上阪徹

PHOTOGRAPH=太田隆生

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