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2022.06.24

元外交官トップ・佐々江賢一郎「自分は、自分以外にはなりようがない」

外交官のトップである外務事務次官を務め、さらには駐米大使としても活躍した敏腕外交官・佐々江賢一郎氏による連載「元外交官トップ・佐々江賢一郎の超交渉術」。第3回は、言語も文化も歴史も異なる各国の要人と相対し、数多くの困難な交渉をまとめてきた佐々江氏が説く「自分らしくいることの大切さ」について。【過去の連載記事】

自分を大きく見せようとしても化けの皮は剥がれる

誰かと初めて会う。信用をもらいたいと思う。信頼されたいと思う。もちろん外交の場でも、こういうケースはあるわけですが、私が心がけていたのは、あまり頑張らないことでした。自然体で行く。自分の地でいく。

大事なことは、自分らしく行くことだと思っていました。あまり自分のまわりにガードを張り巡らさない。気楽な気持ちで向かうのです。

なんとか自分を大きく見せたほうがいいのではないか、と考える人もいますが、相手が本物の人であればあるほど、大きく見せようとしたところで化けの皮は剥がれてしまいます。実物大でいたほうがいいのです。

知ったかぶりをしないことも重要です。わからないことは無邪気に聞いたほうがいい。「それはどういうこと?」と聞くと、相手は一生懸命、話してくれたりすることもあります。

むしろ必要であれば、相手が自分を馬鹿にしない範囲で弱さを出す、自分の弱みを出す、ということも大切です。それが逆に信用につながったりもする。

自分がどうしてこういう考えを持つようになったのかは実はよくわからないのですが、外務省人生で出会った上司、先輩、さらには後輩や部下の存在が大きかったのだと思っています。名前を挙げればきりがないほど、立派な人に巡り会うことができました。そのすべてが我が先生でした。

入省したときに上司だった課長は、机の上に何も置かれていませんでした。分厚い手帳だけが1冊、ポツンと置かれていて、何かあればそれを開く。意思決定では、即断即決です。スパッと決める。無駄なことをしない、極めて切れ味のよい仕事をする人でした。

すごい人だな、と思って、ただただ感動したわけですが、その後もいろんな人に巡り会うことができた。99パーセントの人が、いろんな学びをくれました。

相手がどんなに偉い人であれ、怖じない

交渉に同席して、学んだことも大きかった。例えば、大事なことは怖じないこと。物怖じしない力というのは、外交官にとっては、とても重要な要素なのです。言い換えれば、胆力。相手がどんなに偉い人であれ、難しい人であれ、怖じない。

これは特に、部下から上司を見ると、よくわかります。偉い人の前に出て行くと、急にかしこまってしまう人もいれば、はっきりとノーと言える人もいる。あるいは、交渉で攻められたときには妥協も必要になるわけですが、どこまで頑張れるか。それも、見て学んだことでした。

いろんなタイプの上司に出会いました。よくこんなことを考えつくな、というクリエイティブな人もいるし、普段は昼行灯みたいなのに重要なときになるとスパーッと切れていくような人もいる。

情熱と行動に常に満ちあふれて馬のように走っている人もいるし、人格が素晴らしく、仏様のようにピカッと光っている人もいる。いろいろいるのです。

私は、「ああ、ああいう人にはなれないな」と思いながら暮らしていました。自己評価は実に低かった。

世間的にいえば、それなりの立場になっていくことになりますが、私自身はそうは思っていませんでした。むしろ、部下が自分よりも偉く見えることもあった。自分にない才能がわかると、「この人はすごいな」とよく思いました。

そういう部下から見ると、きっと私なんて頼りないな、大丈夫かな、と思っていたりするんじゃないかと感じていました。そのおかげか、いつも助けられました。

誰かのようには、やっぱりなれないのです。自分は自分で行くしかない。もっともそうはっきりと思えるようになったのは、相当な年月を経てからではありますが。しかし、そう考えることで、まわりも動き出すのです。

Kenichiro Sasae
1951年岡山県生まれ。東京大学卒業後、外務省入省。北米第二課長、北東アジア課長、内閣総理大臣秘書官、総合外交政策局審議官、経済局長、アジア大洋州局長、外務審議官、外務事務次官などを歴任する。2012年には駐アメリカ合衆国特命全権大使に就任。’18年より日本国際問題研究所の理事長を務める。

【連載 元外交官トップ・佐々江賢一郎の超交渉術】

TEXT=上阪徹

PHOTOGRAPH=太田隆生

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