三好康児、柴崎岳、武藤嘉紀、中島翔哉……。己の成長、その先にある目標を目指して挑戦し続けるフットボーラーたちに独占インタビュー。さらなる飛躍を誰もが期待してしまう彼らの思考に迫る。三好康児4回目。
サッカー人生最大の夢
勾配のきつい坂道も、新しいクラブハウスも、そこから眺めるグラウンドの景色も、何もかもが懐かしい――。
ベルギーのロイヤル・アントワープFCに所属する三好康児は今夏、3年ぶりに古巣の川崎フロンターレの練習場を訪れ、特別に練習参加をさせてもらった。それは三好にとってリフレッシュの時間であり、原点を見つめ直す時間にもなった。
「麻生グラウンドに行ったのは、2019年の夏にアントワープに行く直前、契約の話を詰めに行って以来でした。その頃から選手やスタッフはたくさん変わりましたけど、変わってない人たちもいて、楽しかったですね。あそこは自分が育った場所なので、『よし、頑張るぞ』って奮い立ちました。優しい言葉をかけられ、気持ちが揺れ動きそうになりながら(苦笑)」
優しい言葉とは、「いつでも戻ってきていいんだぞ」という古巣復帰を促すものである。
アントワープとの契約があと1年で切れるという状況で、契約延長のオファーを得ていない三好には今夏、「フロンターレ復帰もあり得る」といった憶測が報じられていた。
「そんな報道が出るような立場なので(苦笑)。でも、まだまだヨーロッパに食らいつきたい。ベルギーリーグは面白いリーグだし、さらに上のレベルも目指しているので、ハングリー精神を持ってやっていきたいと思います」
目指すのはアントワープでの成功、欧州5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)へのステップアップだけではない。
11月に迫ったカタール・ワールドカップ――。
ワールドカップ出場は、“サッカー人生最大の目標”だと三好は言い切る。
「2002年の日韓ワールドカップを見て、この舞台でプレーしたいと思ったのがサッカーを始めたきっかけで。小学校に上がる前のことだったので、どの選手が、どのプレーが、という記憶はないんですけど、テレビの中の熱狂だったり、周りの雰囲気だったりで、子どもながらにサッカーって凄いんだな、ワールドカップって凄いんだなって。ワールドカップでプレーして、いい結果を残すんだという思いが自分の原動力で、そこはプロになる前から今も変わってないですね」
その憧れの舞台が5ヵ月後に迫っているが、日本代表における三好の立場は芳しいものではない。
目標と現実との差はカンフル剤
インタビューを行ったのは、まさに日本代表がカタール大会に向けた強化と選手選考の一環でパラグアイ代表、ブラジル代表、ガーナ代表、チュニジア代表と戦った、6月シリーズの最中だった。三好は昨年10月のアジア最終予選での選出を最後に日本代表から遠ざかっている。
「現状から見たら、次のワールドカップが厳しい状況にあるのは分かっています。ただ、だからって諦める理由にはならないし、少しでも可能性がある限り、そこを狙って真摯にやり続けるのが自分のポリシー。あと5ヵ月もあるので、自分次第で状況を変えていけると思っています」
小学生でサッカーを始めて以来、三好はこと細かに目標を立ててきた。それが現在地を知るための指標となり、その都度足りていないものを求めて努力する。目標と現実との差が、自身にとってのカンフル剤となった。
「U-17ワールドカップ、U-20ワールドカップ、海外移籍、オリンピック出場って、自分の目標を一つひとつクリアしている部分は評価していいと思います。でも、かなり遅れてもいる。たとえば、17歳でプロになって、Jリーグで3年プレーして、20歳で海外に移籍して、って考えていたのに……」
実際には、Jリーグで5年プレーすることになった。
「ああ、2年遅れちゃったなって。その遅れを取り戻すために、もっともっとやらないといけない。25歳までに5大リーグでやりたい、チャンピオンズリーグに出たいと思っていましたから。自分で立てた目標に対して届いていないことが、いつもモチベーションになってきた。自分が立てた目標をすべて達成できることなんてないんじゃないかっていうくらい(苦笑)」
だからこそ、自分に満足することはない。他人を気にしたり、嫉妬したりする暇もないのだろう。
その未来の目標のひとつを、明かしてもらった。
「やっぱり、スペインでプレーしてみたいです。オリンピックでスペインと対戦して、『これがスペインか』と肌で感じたので、なおさら、『この場所に行って勝負したい』という気持ちを常に持っています。ただ、そこは現実もしっかり把握しないといけない。目標を持ちながらも、冷静に自分を客観視することも必要だと思っています」
仕事が楽しければ人生も愉しい――。
これは『GOETHE』のテーマである。
三好は仕事としてのサッカーをどう捉えているのだろうか。
「僕はボールを蹴るのが大好きで、小さい頃から今までずっと、ボールと戯れているのが楽しい。サッカーが仕事になることによって、楽しくないこと、苦しいことはたくさんあって、楽しいだけではやっていけない部分もある。それでも何不自由なくボールを蹴らせてもらって、それが仕事なんて、すごく幸せなことだと思います。チームメイトのアフリカの選手には、『サッカーは仕事であって楽しいものではない』『お金を稼いで家族を養うための手段だ』とはっきり言う選手もいる。僕にとってもサッカーは仕事だけど、楽しいというのが原点にあると思います」
ヨーロッパにおける生き残りを懸けたシビアな競争において、この先いくつもの困難が待ち受けているに違いない。それでも三好康児は、目標に向かってボールを蹴り続ける。まずはアントワープでの成功、次なるステージへの挑戦権、そして、ワールドカップ出場を目指して――。