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2021.11.04

史上稀に見る遅咲きスラッガー杉本裕太郎は青学時代、とにかく不器用だった。

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。今回はオリックス優勝の立役者のひとり、杉本裕太郎の夜明け前。【第15回 栗林良吏(広島カープ)】

青学時代の杉本

青山学院大3年時の2012年5月1日 対中央大戦

25年ぶりとなるパ・リーグ優勝を成し遂げたオリックス。そんなチームの中で、以前のコラムでも取り上げた宮城大弥とともに今年大ブレイクを果たしたのが杉本裕太郎だ。昨年までの5年間ではわずか9本塁打しか記録していなかったものの、今シーズンの途中からは不動の4番に定着し、打率.301、32本塁打、83打点と主砲に相応しい成績を残してみせたのである。杉本は2013年のドラフト10位で社会人野球のJR西日本からオリックスに入団しているが、この順位からも分かるようにアマチュア時代は決して高い評価を受けていたわけではない。ちなみに過去に30歳を超えてからシーズン30本塁打を初めて記録したのは和田一浩(当時西武)だけであり、史上稀に見る遅咲きの選手と言っても過言ではないだろう。

そんな杉本のプレーを初めて見たのは’10年9月4日に行われた中央大と青山学院大の試合だ。杉本は1年生ながら青山学院大の6番、指名打者として出場。試合は杉本の前を打つ下水流昂(今季まで楽天でプレー)のホームランなどで青山学院大が5対2と勝利をおさめたが、杉本は3打数ノーヒット1四球という結果に終わっており、当時のノートにも詳細なプレーについては書かれていない。188㎝の大型1年生で、将来が楽しみだなと思ったことをかすかに記憶している程度である。翌年’11年5月5日に行われた国学院大との試合でも杉本は4番、センターで出場しているが、4打数ノーヒット、2三振に倒れており、強い印象を残すことはなかった。

ようやく杉本のことを注目選手として認識するようになったのは3年生となった2012年5月1日の対中央大戦からだ。この試合も4番、センターで出場しながら5打数ノーヒットと結果を残すことはできなかったが、第1打席では相手先発の鍵谷陽平(現巨人)のストレートに力負けすることなく鋭い当たりのレフトフライを放ち、見送り三振を挟んだ後に放った3本の内野ゴロも球足の速さが際立っていたのだ。

常に一塁まで全力疾走する努力家

当時のノートには「重心の高い構えでトップの形が不安定に見えるが、ヘッドが下がることなく意外にスムーズに振り出すことができている」、「大型だがプレーに重苦しさがないのが長所」などと書かれている。そしてもうひとつ目立ったのが走塁面だ。前述した1年秋、2年春、そしてこの試合を含めて杉本は7本の内野ゴロを放っているが、そのうち6本で4.3秒台の一塁到達タイムを記録している。右打者の場合は4.2秒台であれば俊足というレベルと言われており、4番を打つようなスラッガータイプで4.3秒台というタイムは上々と言える数字である。またこれだけ同じ水準のタイムを続けたマークしているということは、一塁までの全力疾走を怠っていないという証拠である。

プロのスカウトや社会人野球の採用担当が野手のことを話す時に必ず話題に挙がるのは足についてである。決して俊足というわけではないものの、これだけコンスタントにちゃんと走る姿勢を見せているということは、獲得する側もプラス評価の材料となっていたことは間違いないだろう。

ただそれでも大学時代の杉本は最後までドラフト候補と呼ぶには物足りないプレーが続いていたことも事実である。4年生となった’13年5月1日の対駒沢大戦では今永昇太(現DeNA)から2三振を喫してノーヒット、9月7日の対亜細亜大戦では九里亜蓮(現広島)から1安打を放ったものの2三振を喫しているが、当時のメモを見返すと「大型でダイナミックに動けるのは魅力だが打つ技術はなかなか上がらない」(対駒沢大戦)、「外のスライダーは全て空振り。いつまでたっても打撃が安定しない」(対亜細亜大戦)と厳しい言葉を並べている。大学の2年後輩で現在もチームメイトである吉田正尚の洗練された打撃との対比もあって、とにかく不器用というのが大学時代の杉本だった。

その印象は社会人、そしてプロ入り後も大きく変わらなかっただけに、今年の大ブレイクは本当に驚きである。持って生まれた恵まれた体格とパワーはあったものの、一塁までの全力疾走に現れていたようにたゆまぬ努力が遅咲きの花を咲かせた要因のひとつだったと言えるのではないだろうか。そして杉本のブレイクが与えた影響は所属するオリックスだけではない。今年のドラフトでは中村健人(トヨタ自動車→広島3位)、末包昇大(大阪ガス→広島6位)、速水隆成(群馬ダイヤモンドペガサス→日本ハム育成2位)と24歳以上の社会人、独立リーグの強打者タイプが相次いで指名されたのも、杉本の成功があったからに他ならないだろう。

彼らの道標として、ポストシーズン、そして来季以降もその打棒を如何(いかん)なく発揮し続けてくれることを期待したい。

【第15回 栗林良吏(広島カープ)】

Norifumi Nishio
1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=日刊スポーツ/アフロ

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