昨今、日本全国で新たなアイランド・リゾートが開業。島の文化や歴史、その土地のライフスタイルを反映させたホテルが誕生している。飛行機や船を乗り継ぎ、遠くてもわざわざ行きたいのは、そこに記憶に残る絶景と、心身が癒やされる至極のもてなしがあるからだ。今回は、熊本・前島の「天ノ寂(あまのじゃく)」を紹介する。【特集 死ぬまでに泊まりたい島ホテル】

静けさに耳を澄ませ、多島美を味わう
上天草の穏やかな海を望む「天ノ寂」は、自然と対話するためだけにあるかのような静寂を宿す全11室のプライベートホテル。
その名に込められた“敢えて逆らう”という思想は、削ぎ落とされたミニマリズムな設計に象徴されている。すべてに宿る美意識は控えめでありながらも強い存在感を放ち、供される料理もまた、ひとつの哲学だ。地元の山海の幸を活かし、手をかけすぎず、余白を残す。例えば、天草の新鮮な海老を使ったひと皿は、塩と柑橘だけで仕上げることで素材の持つ力を研ぎ澄ます。そのシンプルさは技巧や演出に頼らずとも、感動を生むという信念の現れでもある。
「天ノ寂」が捧げるのは、“無為の豊かさ”である。読書、瞑想、あるいはただ海を眺めるだけの時間─それらがいつしか人生における最良の贅沢だったと気づくはずだ。
この記事はGOETHE 2025年6月号「総力特集:楽園アイランド・ホテル」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら