昨今、日本全国で新たなアイランド・リゾートが開業。島の文化や歴史、その土地のライフスタイルを反映させたホテルが誕生している。飛行機や船を乗り継ぎ、遠くてもわざわざ行きたいのは、そこに記憶に残る絶景と、心身が癒やされる至極のもてなしがあるからだ。今回は、香川・小豆島の「海音真里(うみおとまり)」を紹介する。【特集 死ぬまでに泊まりたい島ホテル】

波の音がすべてを包む。会話の代わりにある静謐
驚くほど穏やかな、瀬戸内に流れる時間。小豆島・堀越の入江、その安らかな海を望む地にひっそりと佇むのが「海音真里」だ。趣ある人気宿「島宿真里」の別邸として2019年にオープンした全6室。展望風呂つきの客室から眺めるのは、潮の満ち引きにさえ気づかせてくれるような、静謐な海の表情。そう、ここで得られるのは、「滞在」という名の贅沢な思索時間だ。
その宿は小豆島の文化に軸足を置きながら、感性に訴える体験を積み上げるような滞在を楽しむ場所。例えば夕食の「オリーブ会席」。小豆島が日本におけるオリーブ発祥の地であることを知る人は少なくはないが、それをコース料理の軸に据える独創的な料理は、心と身体に栄養を与える。地魚と地野菜、そして小豆島産の数種のオイル。繊細な火入れ、見事な塩の使い方は訪れる者を喜ばせ、皿ごとに島の記憶を凝縮させている。
海の音だけを聴きながら過ごす極上のひと時
館内に併設された「三風舎」では、自家製の調味料や地元のオリーブオイル、あるいは古美術の器などの逸品に出合える。単に「美味しかった」で終わらせない、記憶に長く残る余韻の演出が心憎い。また、土地の恵みや季節を感じるツアーやワークショップを定期的に開催。普段とは違う感性を刺激する。
小豆島に精通したコンシェルジュのアドバイスで、敢えて予定は立てずにふらり気ままに出かけるのもいいだろう。仕事も人生も、全力で走ってきた人には、立ち止まる技術も必要だ。「海音真里」は情報を遮断し、思考を深くする場。ここには「人生の密度を上げる滞在」がある。感性をアップデートし、視座を高めたいと願うビジネスパーソンにこそふさわしい。
旅とは自分をチューニングする行為─その意味を「海音真里」は静かに教えてくれる。真のラグジュアリーとは消費でなく投資だと捉える人にお薦めしたい。
この記事はGOETHE 2025年6月号「総力特集:楽園アイランド・ホテル」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら