国内旅行の需要が増し、ホテルでの“滞在の質”に重きを置く人が増えた今日において、特に人気が高まっているのがスイートルーム。今回、訪れたのは「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」。京都の喧騒とは無縁の大人のためのスモールラグジュアリーホテルで、その楽しみ方を探る。「実は使えるスイートルーム案内」Vol.3。
2022年にオープンした、オークラ初のスモールラグジュアリーホテル
水景の心地よい水音に誘われ、美しい回廊を進む。ホテルに一歩足を踏み入れると、日本庭園が目の前に現れ、時間の流れが変わるのを感じた。突如訪れた静寂とでもいうのか。京都の東西をつなぐ、丸太町通り沿いに面していることを一瞬忘れてしまうほどの没入感にどっぷりと浸れる、それが2022年1月20日に誕生した「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」だ。
京都・岡崎は京都市の都市部と東山山麓の間に位置し、平安神宮や南禅寺といった有名な神社仏閣をはじめ、京都国立近代美術館や京都市京セラ美術館などの文化施設が集まった文化的なエリア。また、琵琶湖疎水沿いの桜や紅葉など四季折々の風景などを楽しむことができるエリアでもある。
銀閣寺に代表される「わび・さび」、「風合い」、「調和」などの美意識や、「書院造り」「庭園」「水墨画」といった東山文化の概念が、ホテルの随所に散りばめられているので、そこに注目するとさらに滞在が奥深いものとなるはず。
五山送り火の3つが見られる別邸スイート
「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」の総客室数は60室で、テーマは「東山に佇む山荘」。うち、8室が「別邸スイート」となる。北側に位置するスイートに足を踏み入れると、自動でカーテンが開き、金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)の境内や、東山に広がる自然が目に飛び込んでくる。大きな窓に面した縁側に座ると、その美しい光景に時が経つのも忘れるほど。親鸞聖人草庵跡と伝わる寺院「真宗大谷派岡崎別院(東本願寺岡崎別院)」の隣地に位置するため、借景は格別だ。
お盆に帰ってきた先祖の精霊を再び送るという言い伝えで、京都を囲む5つの山に「大文字」、「左大文字」、「船形」、「鳥居形」、「妙法」をかたどった火を灯す五山送り火。実は「大文字」、「舟形」、「左大文字」の3つが見える位置にあるのがこの別邸スイートだった。朝は空気が澄んでいるため、はっきりとその3つを見ることができた。8月16日に行われる五山送り火では幻想的な雰囲気を味わえることだろう。
約70平米とコンパクトながらバルコニーを備えているので、客室に備えられた1860年創業、京都祇園の宇治茶専門店「祇園辻利」の宇治かぶせ茶をいただくもよし、ミニバー(無料)の飲み物をいただくもよし、ルームサービスを頼むもよし、1日をホテルの中で過ごすという大人の贅沢もいい。
インテリアデザインは乃村工藝社 RENSによるもので、杉やウォールナットなど木材は表情豊かな素材が使われ、周囲の豊かな景観と調和する絶妙な心地よさがある。圧巻なのは、ヘッドボードと天井に施された「HOSOO」による西陣織だ。通常の客室よりも贅沢にあしらわれ、見る角度はもちろん、時間帯によっても光の加減で見え方が変化する織りの豊かな表情を楽しめる。
そのほか、書家・川尾朋子氏の書や、中川木工芸中川周士氏の作品の大盆などの作品が。部屋ごとに異なるアートピースが配置されているので、再訪する楽しみにもなる。ホテル全体が小さなアートミュージアムのような趣きだ。
伝統工芸を担う後継者6人のプロジェクトユニット「GO ON(ゴオン)」とコラボ
ホテルのロビー、レセプションから、客室、そしてレストランの至るところで感じる上質な京都・東山の文化の空気の秘密。それはホテルのためだけに作られた工芸品の存在に他ならない。滞在するからこそ、その雰囲気に包まれる感触を味わえる。
伝統工芸を担う後継者6人によるプロジェクトユニット「ゴオン」は、細尾真孝氏(細尾 代表取締役社長)、八木隆裕氏(開花堂6代目)、中川周士氏(中川木工芸 主宰)、小菅達之氏(公長斎小菅5代目)、辻徹氏(金網つじ 職人兼代表取締役社長)、松林豊斎氏(朝日焼十六世)で構成され、今回ホテルと初のコラボレーションとなる。
伝統を受け継ぎ、新しい価値を生み出す、現代的な京の美や手仕事に注目すれば、ホテルを存分に愉しめる。別邸スイートは、中でもその妙を味わい尽くせる部屋といえる。
京都ならではのひと皿を創造する「ヌーヴェル・エポック」
オークラ初となる「別邸」ブランドが指し示すのは、スモールラグジュアリー。ゆえに、レストランは日本のフランス料理を牽引してきたオークラフレンチの系譜を受け継ぐ「ヌーヴェル・エポック」一択に勝負をかける。The Okura Tokyoでのオープンに続き、2店目。
腕を振るうのは、ホテルオークラ東京(現:The Okura Tokyo)のフレンチで研鑽を積んだ山下亮一シェフ。京都・岡崎の地では、地物である加賀茄子、万願寺とうがらしなど、季節の京野菜をふんだんに取り入れつつ、和と洋の融合をはかる。移ろう京都の四季を表現したひと皿ひと皿に心躍る。
料理を引き立てる空間にも目を凝らしてほしい。季節ごとにさまざまな表情を見せる庭園はまさに最たるところ。春夏秋冬を味わうにうってつけの場所だ。また、老舗の創作竹芸品メーカー「公長齋小菅(こうちょうさい小菅)」の竹細工による仕切りのある棚は店内に温かみを与え、アートシェルフに置かれた木工、漆、ガラスなどを用いた京都を中心とした気鋭の作家の作品は目にも麗しい。
フルスペックではないからこその愉悦
隣接する真宗大谷派岡崎別院の工事が終了する2023年6月までの間、茶室や新本堂もできるので、この地ならではのプランも作られる予定だ。
オークラ初となる別邸ブランド「ホテルオークラ京都 岡崎別邸」は、フルスペックではないからこそ、その名の通り、こじんまりとした上質な時が流れている。借景という絶景、工芸品が織りなす空間の絶景。中心地にはない、岡崎ならではの文化的な雰囲気に包まれたいなら、「別邸スイート」が正解だ。
ホテルオークラ京都 岡崎別邸
住所:京都市左京区岡崎天王町26番6(地番)
TEL:075-252-5201(ホテルオークラ京都 岡崎別邸 予約センター、9:00〜18:00)
料金:別邸スイート¥127,476~(1室1泊2名。料金は消費税・サービス料を含む)
客室数:60室(内別邸スイート8室)
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