2015年に発足したゲーテのトライアスロンチーム「GLT(GOETHE LOVES TRIATHLON)」の第7期メンバーが2025年秋に始動。間近に迫る、2026年5月17日にハワイで開催される「ホノルルトライアスロン」に向けた挑戦の軌跡を連載でお届けする。第三回はバイクについて。第一回のスイムはこちら。第二回のランはこちら。

バイクは楽しい。けれど、最初はやっぱり怖い
トライアスロンの3種目のなかで、唯一“道具”を使うのがバイクだ。
スイムは水と向き合い、ランは自分の脚で前へ進む。一方、バイクはロードバイクという相棒を操りながら、風を切って距離を稼いでいく。スピードに乗った時の爽快感は格別で、トライアスロン経験者の多くが「バイクは楽しい」と口を揃える。
だが、初心者にとっては不安も大きい。
特に最初の壁となるのが、ビンディングシューズだ。専用のシューズをペダルに固定することで、踏み込む力だけでなく、引き上げる力も推進力に変えることができる。効率よく走るためには欠かせない装備だが、慣れないうちは停止時に足が外れず、そのまま横に倒れてしまう“立ちごけ”への恐怖がつきまとう。
「倒れたら痛いだろうな」
「足を外すタイミングがまだ曖昧」
「スピードが出るぶん、怖さもある」
この日のGLTメンバーにも、そんな緊張感が漂っていた。
GLTが目指すのは、ホノルルトライアスロンの完走。だが、完走への道は根性だけではたどり着けない。泳ぎ方を学び、走り方を見直し、そしてバイクでは、まず“安全に乗る”という大前提を身体に叩き込む必要がある。
今回の練習場所は、埼玉県の彩湖。広々とした環境で、安全に自転車練習がしやすい場所だ。周囲に気を配りながら基礎動作を確認するには、うってつけのフィールドである。
この日の目的は、速く走ることではない。
安全に止まること。
安全に曲がること。
後ろを走る仲間に配慮すること。
そして、自分のバイクを自分で扱えるようになること。
つまり、トライアスロンのバイクパートを楽しむための“土台”を学ぶ時間である。
バイクは、まず「止まる技術」から始まる
バイク練習というと、速く走ることを想像しがちだ。だが、初心者にとって最初に重要なのは、実は“止まること”である。
ロードバイクは、ママチャリとはまったく違う。車体は軽く、タイヤは細く、少し踏み込むだけで想像以上にスピードが出る。そこにビンディングシューズが加わると、停止の動作にもひとつの技術が必要になる。
止まる前に、片足をペダルから外す。
スピードを落としながら、重心を安定させる。
無理に粘らず、危ないと思ったら早めに足をつく。
言葉にすれば簡単だが、実際にやってみると緊張するもの。頭ではわかっていても、身体がまだ慣れていない。ペダルから足が外れた瞬間にほっとするメンバーもいれば、停止のたびに慎重な表情になるメンバーもいる。
しかし、その慎重さこそが大切なのだ。
トライアスロンは挑戦のスポーツだが、無謀のスポーツではない。完走するためには、まず無事にスタートし、無事に次の種目へつなぐことが何より重要になる。バイクの上では、怖さを軽視しないことが、安全への第一歩になる。

急ブレーキは、自分だけの問題ではない
続いて学んだのは、ブレーキのかけ方だ。
スピードが出るバイクにおいて、ブレーキ操作は命綱である。ただし、急に止まればいいというものではない。特にチームで走る場合、自分の後ろには必ず誰かがいる。
前を走る人が急に減速すれば、後ろの走者は対応が遅れる。車間距離が詰まっていれば、接触や転倒につながる可能性もある。つまり、バイクでは「自分がどう走るか」と同じくらい、「周囲にどう伝えるか」が重要になる。
後続を意識して、急ブレーキを避ける。
進路を急に変えない。
曲がる前、止まる前には、余裕を持って減速する。
バイクは個人競技でありながら、周囲との関係性のなかで成り立つ種目でもある。チーム練習だからこそ、その感覚をリアルに学ぶことができる。
仕事においても同じだろう。自分の判断ひとつが、チーム全体に影響する。自分だけが速く進めばいいわけではない。周囲を見て、流れを読み、安全に前へ進む。バイク練習には、そんな大人の学びも詰まっている。
折り返し地点で知る、曲がることの奥深さ
直線を走ると、バイクの気持ちよさはすぐにわかる。ペダルを踏めば、すっと前へ進む。風が頬を抜け、視界が広がっていく。走るほどに、身体が少しずつバイクになじんでいく。
だが、折り返し地点に差しかかると、また別の難しさが現れる。
カーブをどう曲がるか。
どのタイミングで減速するか。
どこに目線を置くか。
どのラインを通れば安全なのか。
スピードを残したまま無理に曲がろうとすれば、外側に膨らむ。ハンドルを急に切りすぎれば、バランスを崩す。焦りは、転倒のリスクにつながる。
そこで大切になるのが、カーブに入る前にしっかり減速すること。曲がっている最中に慌てるのではなく、曲がる前に準備を終えておく。目線は進みたい方向へ。身体に余計な力を入れず、バイクの動きに合わせる。
最初はぎこちなかったメンバーも、何度か繰り返すうちに、少しずつスムーズに曲がれるようになっていく。できなかった動作が、少しずつ身体に入ってくる。その小さな進歩こそ、トライアスロンの面白さだ。
空気を入れることも、トライアスリートの第一歩
練習では、タイヤの空気入れも行われた。
走る以前の準備だが、これもバイクには欠かせない。タイヤの空気圧は、走行感にも安全性にも関わる。空気が少なければ走りは重くなり、パンクのリスクも高まる。反対に、適切に整えられたバイクは、踏み出しから軽い。
自分の道具を、自分で整える。
それは、トライアスロンに挑むうえでの大切な作法でもある。バイクは買って終わりではない。空気を入れ、状態を確認し、乗る前に安全を確かめる。相棒として付き合うからこそ、少しずつ愛着も湧いてくる。
GLTメンバーのなかには、自身の自転車を購入し、すでに自主練を重ねている人も少なくない。日頃から乗っているメンバーはスピードにも慣れ、ペダリングにも安定感がある。一方で、まだビンディングシューズや車体感覚に慣れていないメンバーもいる。
だが、経験の差があっても、走り出した時の表情には共通点があった。
バイクで疾走するのは、やはり気持ちいいのだ。

怖さの先に、風を切る快感がある
ロードバイクの魅力は、身体ひとつでは届かない場所へ、自分の力で進んでいけることにある。
ランでは味わえないスピード。
クルマでは感じられない身体感覚。
風、路面、呼吸、脚の回転がひとつになる瞬間。
慣れているメンバーはもちろん、まだ恐る恐る乗っているメンバーでさえ、直線でスピードに乗った瞬間、表情が少し変わる。緊張のなかに、楽しさがにじむ。怖さだけだったバイクが、「もっと乗ってみたい」という気持ちに変わっていく。
それこそが、トライアスロンが人を惹きつける理由なのかもしれない。
最初からできる必要はない。怖くてもいい。不安があってもいい。大切なのは、正しく学び、少しずつ慣れていくこと。
できないことに向き合い、課題を見つけ、ひとつずつ克服していく。そのプロセスに、大人の挑戦ならではの面白さがある。

バイクの後に待つ、“第4の種目”
バイク練習を終えた後は、ランへのトランジション練習へ。
トライアスロンは、スイム、バイク、ランを連続して行う競技である。つまり、バイクを走り終えた瞬間に終わりではない。そこから、ランに切り替えなければならない。
この切り替えが、想像以上に難しい。
バイクで脚を使った直後は、身体の感覚が普段のランとは違う。脚が重く感じたり、思うようにリズムがつかめなかったりする。だからこそ、バイクからランへ移る動作を練習しておくことが重要になる。
バイクを降りる。
所定の場所に置く。
ランの準備をする。
そして走り出す。
一連の流れは、トライアスロンにおいて“第4の種目”とも言われるほど大切な要素だ。ここで慌てれば、時間を失うだけでなく、転倒や忘れ物にもつながる。落ち着いて、順序よく、次の動作へ移る。その練習を重ねることで、本番の不安は少しずつ小さくなっていく。
挑戦は、昨日の自分を少しだけ超えること
彩湖での練習は、決して派手なものではない。
立ちごけしないための停止練習。
後続に配慮したブレーキ操作。
折り返し地点でのカーブ練習。
タイヤの空気入れ。
そして、バイクからランへのトランジション。
だが、そのひとつひとつが、ホノルルトライアスロン完走へとつながっている。
トライアスロンは、特別な人だけの競技ではない。むしろ、最初は誰もが初心者だ。泳げない、走るのが苦手、バイクが怖い。そんな不安を抱えながらも、仲間と学び、少しずつ前へ進んでいく。
GLTの魅力は、そこにある。
速い人だけが輝くのではない。完璧な人だけが挑むのでもない。不安を抱えながら、それでも一歩を踏み出す人にこそ、成長のドラマが生まれる。
バイクにまたがる前は、立ちごけが怖かった。けれど、走り出してみれば、風が気持ちよかった。曲がれるようになり、止まれるようになり、少しずつ自分のバイクを信じられるようになった。
その感覚は、仕事だけでは得られない充実感をもたらしてくれる。
大人になってから、新しいことに挑むのは勇気がいる。だが、できなかったことができるようになる喜びに、年齢は関係ない。むしろ経験を重ねた大人だからこそ、自分の変化を深く味わえる。
彩湖を走り終えたメンバーたちの表情には、疲労とともに、確かな高揚があった。
ホノルルトライアスロン完走へ向けて、GLTの挑戦は続く。次にペダルを踏む時、メンバーはきっと、今日より少し遠くへ行ける。
風を切るその先に、まだ見ぬ自分が待っている。そんな予感が、また次の一歩を踏み出す力になる。
いよいよ5月17日(土)には合宿の記事がアップ予定。公式練習最終回にはどんな学びがあるのか。
スイムの過去記事はこちら。ランの過去記事はこちら。








