写真界の巨星の原点と進化を描いた評伝『今という永遠 写真家・操上和美の90年』が発売された。本人に取材を重ね、2年の歳月をかけて書き上げた著者・石川拓治が見た操上和美とは。

10代の苦労が、人生を切り開く鍵になった
操上和美は14歳の時に母を喪った。火葬場のある丘から見下ろした富良野盆地は金色の海だった。何千万、何億本の稲穂が大海原の波のように揺れていた。収穫期を迎えた水田の稲穂が金色に輝いて、息を呑むほど美しかった。
「その瞬間、自分はこの土地から出なきゃいけないと思ったんです。この美しさに絡め取られたら駄目だって」
76年前のその日が、彼の写真家としての原点だ。
中学校を卒業した操上は、故郷を出るという夢を心に秘めながら、家族を養うために進学を諦め、10年間家業の農業に没頭する。写真を学ぶために上京したのは、24歳の春だった。
写真学校のクラスメイト全員が「天才に見えた」と、彼は言う。「なのに自分は農業以外何もしてこなかった」と。
そんな彼が僅か4年後に独立して原宿に事務所を構え、日本の広告写真業界を牽引する存在となる。それから60年、90歳の誕生日を迎えた現在も、操上は写真家として文字どおりの第一線で活躍を続けている。今をときめく若き俳優も、往年の大物歌手も、彼の構えるカメラの前に立つことを熱望する。
「今思えば、農業をやったのがよかった。子供の頃から土を耕し、馬に乗っていたからこそ今がある。10代の苦労が、人生を切り開く鍵になった」
1936年に生まれた操上の人生は、今から振り返れば過酷だ。けれど、彼の作品は、その人生から生まれた。写真は時の断面だ。人が生きられるのは今この瞬間でしかないという永遠の真理を、彼の写真は我々の目の前につきつける。
富良野の自然のなかで生まれながら、その美しさに埋没することなく世界を旅し、90歳になった今も自分の仕事には終わりがないと彼は語る。その人生を上梓した。一読を願いたい。

石川拓治 著 幻冬舎 刊 ¥2,090
キース・リチャーズ、ホーキング博士、勝新太郎、村上春樹……数々の伝説を撮り続けてきた写真家・操上和美。見た者の心を震撼させるその写真はどのように生まれたのか。2026年90歳を迎えた操上和美の軌跡に迫った1冊。

