良き夫、良き父親を目指して頑張っているつもりなのに、なぜか妻から冷ややかな視線を浴びせられている。それは、ツボを外しているから。そんな残念なイクメンたちに、父親教育の第一人者、高濱正伸氏が贈る言葉とは? 【その他の記事はこちら】

妻が求めているのはイクメンではなく“可愛げ”
イクメンという言葉が普及して久しいですが、この言葉に苦しめられているお父さんは少なくない気がします。家事や育児への参加を意識するあまり、プレッシャーを感じたり、自責の念に駆られたりといったお父さんは、けっこう見受けられます。
そもそも夫がイクメンを自称していても、妻が満足しているとは限りません。それどころか、「週末になると張り切って料理をするけれど、調味料を戻す位置が間違っている」「掃除のしかたが中途半端」など、愚痴をこぼす妻のなんと多いことか。その上、夫に“やっている感”を出されては、妻がイラつくのも理解できるというもの。夫婦の価値観のズレが、悲劇を招いているのです。
夫にとって妻は宇宙人、まったく違う価値観で生きている存在です。良かれと思ってやったことで妻に怒られたり、意見を求められたから答えたのに、「全然わかっていない!」とキレられたり。いったいどうすればいいのか、私自身、何度となく途方に暮れました。
そこで、師匠と仰ぐ先輩お母さんに教わったのは、「わからないなら聞けばいい」ということ。「調味料はどこに片づければいい?」「掃除はいつもどんな風にやっているか教えて」「子どものことを一緒に考えたいんだけど、どうすればいい?」などと、聞いてしまうのが正解だそうです。
そうされると、妻は「やる気はあるのね」「私に寄せようとしているんだ」と、まんざらでもないはず。「しかたがないわねぇ」などと言いつつも、きっと教えてくれます。
つまり、夫に必要なのは“可愛げ”。妻の機嫌を損ねるくらいならと距離を置いたり、怖気づいたりせず、妻に関心を抱き、近寄るべきなのです。私がこれを教わったのは20年以上も前のことですが、その後、たくさんのお母さんと接し、今ではまぎれもない真実だと確信しています。
理論的な正しさは封印し、感情として寄り添う
父親向け講演会では、妻との会話、コミュニケーションに関する悩みも多く寄せられます。お父さんたちにまず認識していただきたいのが、妻が求めているのは論理的な正しさではなく、感情に寄り添うことだということ。論理的であることは子育てにおいてお父さんの強みのひとつですが、妻に対しては封印するのが得策。
妻の話を聞きながら、「それってこういうことでしょ」と要旨をまとめたり、「こうすべき」と解決策を提示したりしても、妻は喜びません。それどころか、「この人に話をしてもムダだ」と反発されるのが落ちでしょう。
妻の話は、頷きながら黙って聞くに限ります。言葉を発するのなら、「なるほどね」と相槌を挟むとか、「~が嫌だったのよ」という相手の言葉を「~が嫌だったんだね」と、オウム返しにする程度にとどめましょう。これがスムーズにできるようになったら、次は、「それってどういうこと?」「どう思ったの?」と、話を促すような問いかけをする。それが身に着けば、もう大丈夫。会話中に妻の機嫌を損ねるどころか、「聞いてもらってスッキリした」と、内心感謝されるかもしれません。
自分が満たされていなければ、家族を笑顔にできない
これまで一貫して、子どもを“メシが食える大人”にするには、家族の中心であるお母さんの笑顔が必要不可欠で、お父さんはそれに全力を注がなくてはいけないと説いてきました。とはいえ、お父さんだって、自分に余裕がなければ頑張れません。
お父さんが現在置かれている社会は過酷ですし、激しい競争にさらされていることと思います。仕事の職種、ポジション、年収、学歴といった物差しで自分の立ち位置をはかり、嘆き、後悔している人もいるかもしれません。でも、その物差しは、自分にとって本当に大切なものでしょうか?
自分が人生で大事にしているものは何か、どういう時に幸せを感じるのか。自分をじっくりと見つめ直す時間を持ってください。おすすめなのは、日記をつけること。私も12歳の頃から毎日日記をつけていて、嬉しいことから頭にきたこと、他人への悪口まで、第三者の目を意識せず、本音を綴っています。そうすると、自分の“本当の心”が見えてきて、どう生きたいのかもわかってくる。
私も含め、100%理想の人生を歩んでいる人なんていないでしょう。でも、「まあまあいい人生を歩んでいるな」と思えれば、それでじゅうぶん。そうやって、お父さんの気持ちが満たされ、人生を楽しんでいれば、家族を笑顔にすることは難しくないだろうと思います。
この連載を読んでいるということは、アナタは、良き父、良き夫を目指しているということ。今は暗中模索状態かもしれませんが、夜明けはすぐそこ。子どもや妻のためにも、自分自身の幸せのためにも、私のメッセージが一助になることを願っています。
高濱 正伸/Masanobu Takahama
1959年熊本県人吉市生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学へ入学。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。1993年「花まる学習会」を設立、会員数は23年目で20,000人を超す。花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。算数オリンピック作問委員。環太平洋大学(IPU)客員教授。武蔵野美術大学客員教授。日本棋院顧問。ニュース共有サービス「NewsPicks」のプロピッカー。「メシが食える大人」「モテる大人」を教育理念に、子どもの非認知能力育成を実践。近年は家庭教育や父親教育にも注力し、講演は年間300回を超える。著書多数。

