「仕事や育児、人間関係でちょっと疲れてしまった」「何となくうまくいかなくて、心がモヤモヤする」。そんな思いを抱えながらも毎日を一生懸命に生きる人たちに向けて、お笑い界きっての読書家であるティモンディの前田裕太さんが、“心にジュワッと沁みこんでくる言葉”をセレクトします。第5回は、魚豊著の漫画『ひゃくえむ。』からの一節。

「不安は対処すべきではない」
『ひゃくえむ。』(魚豊/講談社)
不安と期待は表裏一体
人生、不安の連続です。
未来のことを考えたらキリがないし、不安に悩み苦しんで疲れてしまうこともあるでしょう。この不安をどう対処すべきか、僕は長らく考えていました。
不安なのは答えがないからで、お酒で誤魔化すのも本質的な解決にならない。
だから、不安な事象に対して真摯に向き合わないといけないと疲弊しながら、その答えを模索していたのです。結果、自分では納得のいく不安との付き合い方は見つかりませんでした。
今回は、そんな僕のような人に別の視点から不安との向き合い方を教えてくれる沁みる言葉です。
『ひゃくえむ。』は短距離の陸上選手の人生を描いた漫画です。
漫画のなかの登場人物の小宮というキャラクターは、大怪我をしてから、怪我の不安が常に頭をよぎるようになり全力で走れなくなってしまいました。
その小宮が財津という日本選手権を5年連続で優勝した選手へ質問をする機会があり、「不安をどう対処しているのか」という質問に、財津が上記のように答えました。
それに続けて、「人生は常に失う可能性に満ちている。そこに命の価値がある」「恐怖は不快ではない。安全は愉快ではない」と回答したのです。
そこで僕は、不安という感情は、自分に期待をしている表れそのものなのだと思いました。
手に入れようが失おうがどうでもいい、と思っているものだったら、どの事柄や物に対しても不安にも思わない訳です。
手に入れたいという気持ち、失いたくないという気持ちは、まさに希望を捨てていない人間の感情そのものなのです。
だから、不安に思うことがあったら、それだけ自分の人生に期待しているということで、むしろ良いことだと思えるようになりました。
不安を無くす努力をするのではなく、目一杯楽しむ。そんな精神になれれば、きっと楽しく不安と付き合っていけるのではないか、とそう思わせてくれる言葉です。

1992年神奈川県生まれ。お笑いコンビ、ティモンディのツッコミ・ネタ作成担当。愛媛県の済美高校の野球部で高岸宏行と出会い、2015年にティモンディを結成する。教育番組『天才てれびくん』(NHK Eテレ)の14代目MC。読書大好き芸人としても活動。また、保護猫ボランティアにも携わり、その様子を発信している。