「もっとちゃんと考えて」そう言われたことがある人は少なくないだろう。しかし、なんとなく考えただけでは、いつまでたっても「ちゃんと考えた」ことにはならない。では、どうすれば思考の質を高め、"頭のいい人"になることができるのか? 20年以上にわたって、3000社もの企業のコンサルティングに従事してきた安達裕哉氏が伝授する、頭のいい人になるための“黄金法則”とは。45万部を突破し、2023年の年間ベストセラー1位に輝いた『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)より、一部を抜粋・再編集して紹介する。#1/#2
「物事の本質の理解」に時間を使う
頭のいい人は、なぜたとえ話でもわかりやすく話せるのでしょうか?
それは“物事の本質を理解できている”からです。本質を理解していない場合、いくら話し方を注意しても、わかりやすく話すことはできません。わかりやすそうな話をしているだけで、わかりやすい話にはならないのです。
たとえば、「コンサルティング」という仕事。世の中のイメージから大きく実態が乖離(かいり)している仕事のひとつなのですが、コンサルティングの本質をちゃんと理解している人は、小学生にもわかりやすく説明できます。
巷では「コンサルティングとは、企業の課題解決を手伝う仕事」とか「経営者の相談に応えること」といった説明をされることが多いです。
その説明はたしかに正しいのですが、小学生に対しては不適切です。なぜなら、企業、課題、解決、経営者、相談、これらの言葉が、小学生にはピンとこない可能性が高いからです。したがって、小学生にも理解できる言葉を使って、コンサルティングを説明しなければなりません。
たとえば、このような説明です。
大人 〇〇ちゃんは、体の調子が悪いと、お医者さんのところに行くよね?
子ども うん。
大人 会社も、調子が悪くなることがあるんだ。最悪、潰れる。そうなる前に、お医者さんにかかる会社もある。
子ども ふーん。
大人 会社専門のお医者さんが、コンサルタント。
子ども お薬を出してくれるの?
大人 薬も出すけど、まずは体のどこが悪いのか、なんで病気にかかったのかを調べるのが先かな。
子ども のどを見たり、聴診器を当てるとか?
大人 そうそう、あれは体の音を聞いてるのだけど、コンサルタントは会社に行って、社長の話を聞いたり、働いているみんなの様子を見たりする。
子ども そっか、大事な仕事だね。
なお、コンサルタントを医師にたとえるのはよくある説明ですが、実は正確なたとえではありません。コンサルタントと医師は似てはいますが、細かい点では異なります。
しかし「どこが悪いのかを調べて、解決策を提供する」という本質は間違っていません。肝心なのは、相手のレベルに合わせた説明をすることです。本質を理解していないと相手のレベルに合わせて説明することができないのです。
名キャッチコピーが生まれた瞬間
コピーライターは、短い文章で、その商品の魅力を伝え、消費者の心を動かさなければいけません。
コピーライター・仲畑貴志氏の有名なコピーのひとつに温水洗浄便座「ウォシュレット」のコピーがあります。
今でこそトイレにあって当たり前のものとなった「ウォシュレット」ですが、1981年、仲畑氏がコマーシャルを初めて手がけることになったとき、「おしりをお湯で洗うのに十数万円の価値があるのだろうか」という疑問を持ったそうです。
そこで彼は担当者に「紙で、ふくだけじゃ、ダメなんでしょうか」と率直に聞きました。
「紙でふくだけじゃ、とれません」と製品開発の人はこたえた。
仲畑貴志著『この骨董が、アナタです。』より
「でも、ぼくたち、ずーっと、紙でふいてきたじゃないですか」
「では、ナカハタさん、この絵の具を、てのひらにつけてください」
わたしは、青い絵の具を手のひらにつけた。
「この、ティッシュペーパーで、ふいてください」
わたしは、ティッシュペーパーで、手についた絵の具を拭いていった。
「ティッシュペーパーをみてください」
わたしは、ティッシュペーパーを見る。
「絵の具、ついてますか」
ティッシュペーパーには、もういくら拭いても、絵の具はつかなかった。
「てのひらを、みてください」
手のひらには、皮膚のしわに沿って、青い絵の具がいっぱい残っていた。
「おしりだって、おんなじです」
わたしの脳の奥が、チリンと鳴った。これは、売れると確信した。
おしりを拭いたトイレットペーパーに便がついていなくても、おしりには便がついている。
絵の具が染みついた手と、絵の具のついていないティッシュを見て、生まれたのが「おしりだって、洗ってほしい」という名コピーでした。このコピーをもとにしたCMによって、ウォシュレットは瞬く間に大ヒット商品になりました。
コピーライターは魔法のように言葉を巧みに操って人の心に刺さる言葉を書くのではなく、製品のことから、その製品を使う人のことまで、とにかく対象となるものを深く理解することに重きを置いて、言葉を紡ぐ人たちだと思います。
これは、頭のいい人が話す前に考えていることそのものだと言っていいでしょう。
人の心を動かせるかも、わかりやすく話せるかも、理解の深さに比例するのです。