2022年も仕事人たちの浪漫溢れる家の数々を取材。そのなかでもこだわりが詰まった都内の邸宅3軒をまとめて紹介する。※GOETHE2022年12月号掲載記事を再編。
1:3年かけて土地を購入! 中目黒のラグジュアリーな都市型邸宅
テラスから中がすべて見渡せる、家族の距離が縮まる家
瀟酒なカフェやショップが建ち並び、流行の発信地として若い世代を中心に支持を集める中目黒。その一方で、中目黒には目黒川や西郷山公園など自然豊かなスポットも多く、古くから“住みたい街”として名を馳せてきた。
都内で不動産業を営むA氏も、中目黒に心惹かれたひとりだ。
「今から6年以上前、上の娘が小学生、下の息子も幼稚園に入り、そろそろ家族の拠点として一軒家を持ちたいと思い始めました。街の雰囲気が好きで、どこに行くにもアクセスがよく、加えて自然環境がいい。僕の勤務地にも近く、家族での時間が増やせるはず。そんな思いから、中目黒で土地を探し始めました」
だが超人気エリアゆえに、土地は皆無と言っていいほど出ていない。あっても、サイズが小さかったり、形状がよくなかったりで、運よく古くから住んでいる人が物件を手放しても、跡地は大体分譲マンションになる。
「土地がないなら、自分でつくるしかないなと。目の前が公園の理想的な場所に築古分譲マンションがあって、12戸のうち4戸がまとめて売りに出されていた。まずはその4戸を購入し、残りの8戸は入居者と交渉を重ねて、1戸ずつ手に入れていきました。約3年をかけて、土地を所有することができたのです」
2:高級不動産販売業・会長が選び抜いた、270度の眺望が叶う都内の絶景邸宅
数々の縁を紡いでくれるプライベートダイニングルーム
天空に抱かれながら、日中は圧倒的な公園の緑に癒やされ、夜は街の夜景を見下ろして充実感に満たされる。そんな眺望を独り占めできる部屋が原宿にあった。所有者は「トランプ・インターナショナル・ホテル・ワイキキ」を始め、ハワイの高級不動産の日本市場での販売を担う、セブンシグネチャーズ・インターナショナル会長、中野陽一郎氏だ。
「不動産を取得する際の絶対条件が眺望、いわゆるビューの素晴らしさなんです」
なぜなら部屋はいかようにも手を加えられるが、ビューだけは購入後にいっさい変えることができない。それだけに建設前に図面やGoogle Earthを駆使して想像を膨らませ、周辺ビルの屋上から実際に確認するという。
「もちろん販売業者の眺望シミュレーションも見せてもらいますが、やはり自分の目と想像力で最後は判断します」
角部屋ゆえに270度の眺望がかなうこの部屋からは、左の眼下に東郷神社、窓の外には明治神宮と代々木公園の緑が広がり、夕方以降は渋谷と西新宿の高層ビルの夜景が楽しめる。
3:世界的建築家が設計! 東京・南麻布の閑静な住宅地に建つ、美術館のような邸宅
自身の作品と対峙するための完璧な美空間
南麻布の閑静な住宅地に白亜の邸宅が建つ。間口は決して広くはない。だが一歩中へ入ると、美術館と見紛うほどの圧倒的な空間の広がりに驚かされる。
設計を手がけたのは2014年に“建築分野のノーベル賞”といわれるプリツカー賞を受賞するなど、国際的に活躍する建築家の坂 茂氏。
現在のオーナーで、邸宅に暮らす美術家S氏は’19年に邸宅を購入。徹底的に、こだわりのリノベーションを行った。
「建物には前のオーナーが手を加えた箇所がたくさんありました。家族構成に合わせて、暮らしやすいように増改築するのは決して悪いことではありません。ただ、私が受け継ぐことになって、まずは坂氏が建てた当時の姿の印象に戻したかった。一度、原型に近い状態に戻し、私の好きな空間にするため、壁・床などを根本からつくり直しました。キッチンフードのあり方などに少々疑問があったため、坂氏の建築設計事務所に協力を仰ぎ、担当者と話し合った結果、意匠としてもこの空間になじめる吸引力の強い大型のシンプルなキッチンフードにすることに。排気が以前の5〜6倍に改善され、臭気がリビングに届きにくくなったことは大きな収穫でした」