かつて夢見た暮らしをかなえた仕事人たちの家は、浪漫に溢れている。その家づくりのスケール感はもはや、大人の壮大な遊びなのだ。今回紹介するのは、セブンシグネチャーズ・インターナショナル会長、中野陽一郎氏の原宿にある邸宅。【特集 浪漫のある家】
数々の縁を紡いでくれるプライベートダイニングルーム
天空に抱かれながら、日中は圧倒的な公園の緑に癒やされ、夜は街の夜景を見下ろして充実感に満たされる。そんな眺望を独り占めできる部屋が原宿にあった。所有者は「トランプ・インターナショナル・ホテル・ワイキキ」を始め、ハワイの高級不動産の日本市場での販売を担う、セブンシグネチャーズ・インターナショナル会長、中野陽一郎氏だ。
「不動産を取得する際の絶対条件が眺望、いわゆるビューの素晴らしさなんです」
なぜなら部屋はいかようにも手を加えられるが、ビューだけは購入後にいっさい変えることができない。それだけに建設前に図面やGoogle Earthを駆使して想像を膨らませ、周辺ビルの屋上から実際に確認するという。
「もちろん販売業者の眺望シミュレーションも見せてもらいますが、やはり自分の目と想像力で最後は判断します」
角部屋ゆえに270度の眺望がかなうこの部屋からは、左の眼下に東郷神社、窓の外には明治神宮と代々木公園の緑が広がり、夕方以降は渋谷と西新宿の高層ビルの夜景が楽しめる。
「陽が完全に落ちたあと、青空が刻々と色を変え、辺り一面が青い光に照らされるブルーモーメントが一瞬訪れる時がある」
この景色は購入当時から独り占めするつもりではなかった。
「ここはプライベートダイニングとして、仲のいい友人や仕事の関係者を招き、食事を楽しむスペースにしたかったんです」
信頼するシェフを呼び、お鮨、フレンチ、イタリアン、エスニックなどを、4人から6人で堪能し、移りゆく窓の外の景色を存分に楽しんでもらう。
「そこで部屋全体をリノベイトする際に、照明計画に徹底的にこだわったんです」
リビングルームの照明は4段階に変更できる。1段目が仕事をし、書き物をする生活の灯り。2段目がダイニングテーブルのライトアップとキッチンに明かりを灯す、ディナータイムの灯り。3段目が部屋全体の灯りが落ちるリラックスタイム用。そして4段目がグレアレスライト。
「どんなに夜景が素晴らしいレストランでも、人や光がガラスに映り込んで外が見えにくいことがありますよね。グレアレスライトだとそれがないんです」
グレアレスライトはライトに照らされる範囲を狭めて、照らしたい部分だけを明るくするので、部屋に明暗の差が生まれ、高級感も演出できる。これらをデザイナーに的確に指示するのは、すべて中野氏の経験からだ。
「コロナ以前は年の3分の1ほど国内外の大型ホテルやブティックホテルを仕事のためにリサーチしていて、その結果、一番好きになったのがパーク ハイアット系のインテリア。購入した物件のインテリアはすべて違っていますが、知人から『常にぶれない、中野さんらしい部屋だね』と言われるほど一貫性があるようです(笑)」
過去にも、採算度外視のリノベイトで、中野イズムを貫いたプライベートダイニングをつくり、活用した経験がある。
「結果として、食事をしながら空間を味わっていただくことで、仕事の話をしなくとも、僕自身の所有する物件やセンスに信頼を得てもらう結果となった。プライベートダイニングルームをきっかけに紡いだご縁は、数知れないですね」
そんな中野氏のブランディングの拠点ともいえる場所は、モダンでありながら、オリエンタルのアンティークが空間に深みを与えている。エレガントの域を超えない和洋折衷が持ち味のインテリアに、絶景という相乗効果が加わり、最高のプライベートダイニングルームとなった。
「ここで仕事をすると、発想が無限大に広がるんです」
DATA
所在地:東京都渋谷区神宮前
専有面積:105.67平米
施工者:三井デザインテック
構造:鉄筋コンクリート造
Yoichiro Nakano
1966年生まれ。上智大学卒業後ゴールドマン・サックス、SBCウォーバーグ、コメルツ証券などを経て独立。ハワイの高級不動産「トランプ」「リッツカールトン」「パークレーン アラモアナ」などの販売を手がけ、BlackSand Capitalの日本市場アドバイザー等を歴任。