35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と笑われて2年後、英語力未だ0.5であえなく帰国。だけど日本にいたって、きっともっと英語は覚えられる! 下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。英語力0.5レッスン「人のEnglishを笑うな」第135回!
「棚ぼた」を実は英語で言える!
パンデミック前にロンドンにいた際、お金がなくて英会話教室へ行けず、ボランティアが運営する移民たちのための無料の英語クラスに行っていました。やってくる生徒たちは、10代の学生から、おじいさんおばあさんまで、さまざまな人がいて、英語のレベルもそれぞれでした。
ある時、そのクラスで「好きな野菜について話す」という授業がありました。野菜の名前は言わずに、その特徴を説明、他の生徒に当ててもらうというものです。小学校の授業みたいですが、英語で野菜を説明するのは結構難しいです。
そんななかで、ひとり、ある青年がどう考えても「ダイコン」に当てはまる説明をしていました。
「白くて」「ちょっと辛くて」「カブに似ているけど違う」「アジアの野菜だよ」
ロンドンでもアジア食材屋などでは、ダイコンを見つけることはできますが、そこまでポピュラーな野菜ではありません。その青年は、周りの生徒よりかなり英語力が高かったのですが、そもそもこの「ダイコン」を知っている人がおらず「あいつ何を言ってるんだ」というムードが教室中に漂っています。
誰かが正解に辿り着くまで、ずっと説明を続けないといけないこのゲーム。生徒たちのイライラが募ります。先生も彼が何を説明しているかわからないので困っていました。
Are you talking about Daikon?
「もしかして、ダイコンについて言ってますか?」とおそるおそる私が発言すると、彼は目を輝かせてこう言いました。
Are you Japanese!? That’s a godsend! I’m saved!
「君は日本人?それはゴットセンドだ!救われた!」
彼が何を言っているのかイマイチわかりませんでしたが、いっきに生徒たちの視線が私に移ってしまったので、説明せざるをえませんでした。
「えっと、ダイコンっていうのは、主にアジアで食べられていて、みなさんが思うカブに近いんですけども、ちょっと違って辛くて。あ、そこのアジアンマーケットにたまにあります、まぁ輸入品だから高いんだけど、日本だとだいたい1ダイコン、1ポンドくらいで買えます」という内容をしどろもどろで説明して、うまく伝わったかわからず冷や汗をかきました。
その彼は、日本料理屋で食べた「ダイコンサラダ」を気に入って、以来ダイコン好きになったそうです。イギリスの大学に留学しているアフリカ系の方で、英語は十分に上手なのですが、初心にかえるためにこうやって英語のクラスを受講しているとのこと。
帰り道で、彼が言った“godsend”について調べてみたら、ケンブリッジの辞書にはこう書かれていました。
something good that happens unexpectedly and at a time when it is especially needed.
「必要としている時に起こる、予期していなかった幸運」
ということで、“god(神様)”が幸運を“send(送る)”ということで「神様の贈り物」と訳せそうです。
おかしなムードになった教室にダイコンを知っている日本人がいたことは、神様の贈り物のようなことだった、と彼は言っていたことになります。
さすがにちょっと大袈裟ですが、「自分の努力ではどうにもできないラッキーなことがおこった」というようなニュアンスでしょうか。
調べてみると他にはこんな例文がありました。
The hot weather has been a godsend for ice-cream sellers.
(暖かい陽気は、アイスクリーム売りにとって神の恵となった)
天気は自分ではコントロールできないので、アイスが売れる陽気になるかどうかは、神の恵次第なので、こういうことが言えるのでしょう。
辞書で見ていると類語に“windfall”という言葉もありました。ケンブリッジの辞書にはこういう説明があります。
an amount of money that you receive unexpectedly.
「予期せずもらえるお金」ということだそうです。
“Wind(風)”が吹いて“Fall(落ちた)”果物を食べられてラッキー、というイメージでしょうか。となれば日本語の「棚からぼた餅」に近い印象です。
「努力とは関係なくやってきた幸運」である“godsend” と“windfall”、そもそもラッキーなことというのはあまりないので、使う機会も少ないかもしれませんが、それでも早く使えるシュチュエーションがやってこないかなと、ずっと楽しみにしています。
Illustration=Norio