人間の三大欲求は、宇宙空間になっても満たすことはできるのか？この当然ながら素朴な、居酒屋の下ネタトークになりかねない質問に加え、健康や美容、仕事面にいたるまで、気になる“スペースライフ”を一般社団法人 宇宙カルチャー推進協会 理事・和田直樹氏とサイエンスライター・竹内薫氏のふたりの有識者に聞いた。
Q. 肌への影響は?
A. 皮膚の老化は早くなるでしょう
「地球上と大きく違うのは放射線の量です。毎日、大量の放射線を浴びていると細胞が壊れるスピードが早くなるため、結果、老化は早くなると思います。航空機のパイロットやCAに搭乗制限があるのは、この放射線の被ばく制限があるためです。もちろん、市販されている日焼け止めでは放射線を防ぐことはできません。長期滞在のためには、放射線から身を守る新たな技術開発が必要とされます」（竹内）
「放射線は宇宙船のシールドも突き抜けます。特殊な環境下では、皮膚や血流、細胞が活性化するかもしれないとする研究者もいますが、結果的には、老化が早まると思われます」（和田）
Q. 散髪はどうするのか?
A. 地上にもあるじゃないですか!
「クルーが長期滞在するISSでは、散髪をする必要がありますが、細かい毛が空間に飛び散るのは、もちろんご法度。そのため、バキューム機能つきのバリカンで散髪します。日本にもある、1000円カットと同じ方式です」（竹内）
Q. 無重力ならたるみの心配無用?
A. 宇宙空間は美容の敵!
「確かに、重力の影響による、たるみは軽減されるかもしれません。ただ、宇宙線は肌の大敵。宇宙船内も乾燥していて、美容的にはあまりいい空間だとは思えません。宇宙飛行士の山崎直子さんは、保湿クリームを持参したと言っていました」（竹内）
「地球上では重力の影響で、血液が下半身に集まりやすい環境ですが、無重力下では、身体全体に血液が行き渡ることになります。つまり、地上よりも顔に集まる血液は増え、むくんだ顔面になるのです。ただ、宇宙生活に慣れてくると、不思議とむくみは解消されます。このメカニズムを明らかにすることで、むくみを解消する新技術が生まれるかもしれません」（和田）
Q. 歳をとるスピードが変わるのは本当か?
A. 惑星によって時間の概念は変わります
「アインシュタインの相対性理論によれば、移動速度が速ければ速いほど時間の進み方が遅くなります。つまり宇宙空間を高速で移動していれば、加齢は遅くなるといえます。ただし、よほどのスピードでなければ実感することはないでしょう。ちなみに、火星には火星時間があるんですよ！ 火星の自転周期は24時間39分で、1日が約40分も地球より長くなります。火星で暮らせば、年齢の数え方も変わってくるかもしれません。人類が地球以外の惑星で暮らすようになれば、新しい時間の概念が生まれてくるはずです」（和田）
「地球上では公転周期や自転周期をもとに時間を規定しています。現在宇宙空間では、グリニッジ標準時を使うことになっていますが、地球から遠く離れれば時間の概念が変わり、距離や時間に“宇宙ものさし”ができて、単位が変わる可能性もあります」（竹内）
一般社団法人 宇宙カルチャー推進協会 理事 和田直樹
1961年東京都生まれ。宇宙教育指導者として、20年ほど前から全国の各教育現場・科学館などを回り、子供から大人まで幅広い世代の人たちに宇宙の面白さ・楽しさ・不思議をわかりやすく伝えている。SNSでも情報発信中。
サイエンスライター 竹内 薫
1960年東京都生まれ。東京大学教養学部、同理学部を卒業後、マギル大学大学院にて博士課程修了。理学博士（Ph.D.）。大学院修了後、サイエンス作家として活動し150冊あまりの著作物を発刊。物理、数学、脳、宇宙、AIなど幅広い科学ジャンルで発信を続ける。
Edit＝西原幸平（EATer）
Illustration＝加納徳博
