35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と笑われて2年後、英語力未だ0.5であえなく帰国。だけど日本にいたって、きっともっと英語は覚えられる! 下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。英語力ゼロレッスン「人のEnglishを笑うな」第101回!
「先生! 質問です」は英語では言わないで!
ロンドンの語学学校に通っていたころ、教師やクラスメイトの名前を覚えるのに一苦労しました。みなさんさまざまな国からきているので、耳慣れない名前も多いですし、私はもともとカタカナの名前を覚えるのがとても苦手で、世界史のテストの点数もひどいものでした。それでも、先生に声をかけなければいけない時、こう言っていました。
Teacher!
他の生徒も先生のことを“teacher”と呼んでいましたし、小学校から高校まで先生は「先生」と呼んでいましたから、自然な流れです。
初級クラスなら先生もそれで答えてくれます。(ちなみに入学時にテストを受けてどのクラスからスタートするか決まります。義務教育を受けている日本人で初級クラスからスタートの人はあまりいませんが、お恥ずかしいことに私は初級でした)
しかし中級クラスへ上がると先生はこう言うようになりました。
Don’t call me as teacher! (先生と呼ばないで!)
アメリカ、イギリスほか英語圏の多くは、「先生」ではなく、ちゃんと名前で呼ばないといけないということなのです。「“teacher”は失礼な呼び方なのか」と聞くと「失礼という以前に、変。私の名前は“teacher”じゃないから」ということでした。
名前に、丁寧にMr.とかMs.をつけてももちろんいいですが、呼び捨てでも先生なら失礼にあたらないとのこと。そもそも私たちは「先生」や「部長」「社長」と、職種、肩書きで人を呼ぶことが多く、ましてや下の名前を呼ぶことなど稀なので、うっかり忘れてしまう、基本的なルールでした。
ちなみに、「先生」のことを間違えて「お母さん」と呼んでしまう現象は世界中で起こっているそうです。しかしながらほとんどの国が、「7歳くらいの子がよく間違えるよね〜」と言っているのに対して、日本では時に中学、高校生でも言い間違えることがあるように思います。これはやっぱり肩書きで人を呼ぶ文化が影響しているのかなぁと思いました。高校生どころか、会社で編集長を「お父さん」と呼んだ後輩(当時25歳)を私は知っています。
Moonはロマンチックだけじゃない!
高齢のイギリス人英会話教師とオンラインで話していた時のこと、コロナ禍で子供たちが訪ねて来られないと、先生が嘆いていました。
But even usual situation, I only see my son once in a blue moon.
うすら笑いをしながらいったんはわかったふりをしましたが、必死で頭の中で直訳しました。
「普通の状態の時でさえ、私が息子に会うのは、ブルームーンの時だけ」
頭の中で英語を日本語に訳すから、上達しないのはわかっているのですが、まだまだやってしまいます。そして「ブルームーンの時」ってなんでしょうか。
So, when is the next blue moon?
(なら、次のブルームーンはいつ?)
「ブルームーンの時」に会えるなら、「次に会えるのはいつか?」と聞いたら、笑われました。
once in a blue moon=とても稀なこと
ということわざのようなものだそうです。この場合は、「月が青くなった時にだけ会える」=「めったに会えない」という意味になるそうです。月が青くなることなどないから、それは実質「会えない」ではないのか、とも思いました。が、調べてみると、大気に火山灰などのチリが舞って、月が青く見えることも稀にあるそうです。となると息子さんに会えるのはそうとう稀です。
「といっても年に1回、クリスマスには来るけどね」と先生は言っており、まぁちょっと大袈裟に言ったくらいなのかもしれません。やはりこのフレーズは「実質ない」ではなく「とても稀なこと」という意味で使われているのです。
調べてみれば、“moon”を使ったフレーズはかなりあるようです。例えばこれ。
cry for the moon=不可能なお願い
いい例文を見つけました。
A: I am going to cry the boss for a fifty percent raise.
(上司に給与50%アップを泣きつこうと思うんだ)
B: Don't you think you are crying for the moon?
(それ、不可能なお願いだと思わないの?)
A: Yes. It is a totally unreasonable and absurd cry but when we settle on a ten percent raise, the ten percent will seem very reasonable in comparison.
(うん、ほんと、ありえないお願いだと思うよ。でもそれで10%アップにおちついたら、今にくらべてかなりいいでしょ)
交渉術としても素晴らしいですし、この方法で私もさっそく会社にかけあいたいと思いますが、こちらは「無茶なお願い」というふうに解釈できる例文でした。
また英和辞典だと「ないものねだり」と訳されていることもありました。「泣いて月を欲しがる=ないものねだり」のイメージでしょうか。
月を使った一見ロマンチックなフレーズ、このように結構日常の中で使えるものも多いみたいです。
Illustration=Norio