復活優勝が目立ったPGAツアー2022-23年シーズンの総評と、9月から始まる来季シードをめぐる戦いを、ティーチングプロ・吉田洋一郎が解説する。
ホブランドの躍進とトップ3の安定が目立ったシーズン
PGAツアーはプレーオフが終了し、ビクトル・ホブランドがノルウェー人として初めて年間王者に輝いた。ホブランドがマスターズと全米オープンでローアマとなり、鳴り物入りでプロ転向したのは2019年。これまでショートゲームが弱点と言われていたが、今シーズンは苦手のアプローチショットを改善し、PGAツアー4シーズン目にして頂点に立った。プレーオフ第2戦BMW選手権では、最終日にコース記録を更新する61で回り、大逆転で優勝を果たして他の選手やゴルフファンに鮮烈な印象を残した。来シーズンは初のメジャータイトルを目指してどのようなプレーを見せてくれるか楽しみだ。
プレーオフではホブランドの活躍が目立ったが、年間を通してみればスコッティ・シェフラーとローリー・マキロイ、ジョン・ラームの世界ランキングトップ3の安定した戦いぶりと強さが際立った1年だった。2022年末の世界ランキングはマキロイが1位、シェフラーが2位、ラームが5位で、ラームは2023年4月のマスターズ制覇で世界1位に返り咲いている。今シーズンは、この3人で世界ランク1位争いが演じられてきた。
日本のファンからの期待も大きかった松山英樹は、残念ながらケガの影響もあり、9年連続続いた30人のみが出場できるプレーオフ最終戦への出場を逃すなど、苦しい1年となった。ぜひ、コンディションを整えて、来年は活躍する姿を見せてほしい。
40代で復活したグローバーや遅咲きのクラークの活躍も
一方で、2023年は復活を果たす選手が多い印象も残った。腰痛に悩まされて低迷していた元世界ランキング1位のジェイソン・デイは、クリス・コモの指導を受けて体に負担のかからないスイングを身に付けたこともあり、開幕当初からトップ10入りするなど好調で、AT&Tバイロン・ネルソンで5年ぶりの優勝を果たした。
リッキー・ファウラーも7月のロケットモーゲージクラシックで、コリン・モリカワら3人でのプレーオフを制して4年5ヵ月ぶりに勝利を手にした。デビュー当時から長年指導を受けていたブッチ・ハーモンとのタッグを復活したことや、パターを変えたことなどが功を奏した。
レギュラーシーズン最終戦のウィンダム選手権を制し、2年ぶりの復活優勝を果たした43歳のルーカス・グローバー。翌週のプレーオフ初戦、フェデックスセントジュード選手権でも2009年に全米オープンを制した頃のような強さを見せた。2日目から首位に立ち、最後はパトリック・キャントレーに並ばれたが、サドンデス・プレーオフを制し、初めての2週連続優勝を果たした。
ちなみに、40歳以上の選手が2週連続優勝するのは、2008年のビジェイ・シン以来。40歳以上の選手がプレーオフで優勝するのは、2018年のタイガー・ウッズ以来の快挙だった。
デイら復活組のプレーオフを終えた時点での世界ランキングは、デイが23位、ファウラーが25位、グローバーが30位。昨年末の順位はデイ112位、ファウラー103位、クローバー105位でいずれも100位以下からの大幅な飛躍となった。
また、今年の全米オープンを制したウィンダム・クラークは29歳にしてようやく才能が開花した遅咲きの選手だ。5月のウェルズファーゴ選手権でプロデビュー6年目にして初優勝を果たすと、翌月には全米オープンでビッグタイトルを手にした。その後も好調を維持し、プレーオフ最終戦のツアーチャンピオンシップでは3位となり、ライダーカップの米国選抜メンバーにも初めて選出された。昨年末の世界ランキングは163だったが、10位にまで駆け上がり、今年最も躍進した選手となった。
シード権や来季への足掛かりをめぐる激しい戦いが開幕
これまでPGAツアーは秋に新シーズンが開幕していたが、来シーズンは1月の開幕となる。今年の9月から12月がオフシーズンというわけではなく、米国選抜と欧州選抜の対抗戦であるライダーカップは行われ、今年新設された来期のシード権の獲得を競う「フェデックスカップ・フォール」も開幕する。
2年に一度開催される米国選抜と欧州選抜による対抗戦のライダーカップが2023年9月29日~10月1日にマルコ・シモーネG&CC(イタリア)で行われる。日本では盛り上がりや認知度に欠けるライダーカップだが、多くの欧米選手にとってライダーカップメンバーに選ばれることは非常に大きな名誉だ。それぞれのチームは12人で構成され、成績によって自動的に6名が選出されるが、残りの6名は主将によって選ばれる。そのキャプテンズピックの6人が2023年8月29日に主将のザック・ジョンソンによって発表された。
注目されていたLIVゴルフ所属のブルックス・ケプカは、4月のマスターズ2位、5月の全米プロ選手権優勝といった活躍が評価され選出された。低迷の原因だった膝や腰のケガからも復調し、順当な選出といえるだろう。波乱といえるのは、今季不振だったジャスティン・トーマスの選出だ。トーマスは不振を極め、フェデックスカップ・ポイント71位となり、プレーオフ出場も逃している。しかし、主将のジョンソンは「トーマスの選出に迷いはなかった」と断言した。
一方で、日頃から「ライダーカップに出場したい」と公言し、今シーズン2勝を挙げたキーガン・ブラッドリーは選ばれなかった。SNSでライダーカップへの長年の想いや、悔しさと悲しみの気持ちを正直に語りつつ、米国選抜へのエールを送った。
対する欧州選抜は、マキロイやラームなどの主力は順当にチーム入りしたが、キャプテンのルーク・ドナルドによるサプライズ指名があった。ジャスティン・ローズやシェーン・ローリーなどのメジャー優勝経験のあるベテランが選ばれるなか、若手のニコラス・ホイガード(22歳)とルドビグ・アバーグ(23歳)の二人が選ばれた。
二人とも平均飛距離315ヤードを超える有望株だが、欧州選抜メンバーを決めるライダーカップポイントにおいて、ホイガードは16位、アバーグは58位と12位圏外からの大抜擢となった。ホイガードは直近2試合で3位と5位の成績を残し、アバーグは8月31日~9月3日に開催されたDPワールドツアー、オメガ・ヨーロピアン・マスターズで勝利するなど、二人の調子の良さを評価しての選出となった。経験豊富なベテランと若手の勢いが、どのように融合するのか楽しみだ。
今年から新設されたフェデックスカップ・フォールは、2023年9月から11月まで7大会が開催され、各大会で優勝するとツアー公式勝者として2年のシード権に加え、フェデックスカップ・ポイント500ptを獲得できるほか、来年1月の新シーズン開幕戦ザ・セントリーやマスターズなどの出場権も得られる。
今シーズンを終えて、70位までの選手は来年のシード権を獲得しているが、70位以下の選手は、秋の7大会に出場し125位までに入らなければシード権を獲得できない。そのため、フォールは下位の選手にとってシード権を賭けた戦いの場となるのだが、70位以上の選手も出場できるため、賞金や大会優勝者の称号を目指して上位選手が参戦することも予想される。
既に初戦のフォーティネット選手権(9月14日~17日)には、昨年優勝したマックス・ホーマが連覇を目指して出場することを表明している。また、2023年10月に千葉県で開催される予定の「ZOZOチャンピオンシップ」には、松山英樹が出場するのではないかと期待されている。松山のように、今シーズン不本意な結果となった選手にとっても、復調の足掛かりをつかむための大事な試合となるだろう。1月のシーズン開幕まで、来シーズンをにらんだ熱い戦いが繰り広げられそうだ。