PGAツアー2023年間王者・ノルウェーの星ホブランドのショートゲーム術はアマチュアにも参考になる! ティーチングプロ・吉田洋一郎が解説する。
大逆転勝利から圧倒的勝利で初の栄冠
PGAツアー2022-23年シーズン最終戦、ツアー選手権が8月24日から27日までイーストレイクゴルフクラブ(米ジョージア州)で開催され、ビクトル・ホブランドがノルウェー人として初めて年間王者に輝いた。オクラホマ州立大時代にマスターズと全米オープンでローアマとなり、鳴り物入りでプロ転向してから4年目で栄冠をつかんだ。
ホブランドの今シーズンの成績は、プレーオフが始まるまでに1勝を挙げ、トップ10入りが7回と、決して悪い成績ではないが、際立った活躍がないという印象だった。ところが、プレーオフ2戦目のBMW選手権では、最終日にコース記録を更新する61をたたき出し、大逆転で勝利した。何と言っても圧巻は後半で、9ホールで7バーディーの28を記録。そのままの勢いで最終戦に臨み、最終日はザンダー・シャウフェレの猛追を受けたものの、終わってみれば2位に5打差をつけての圧勝。王者の風格を漂わせる堂々とした戦いぶりだった。
米国でエンジニアとして働いていた父から手ほどきを受け、11歳でゴルフを始めたというホブランドは、「ノルウェー人初」という称号をいくつも持つ選手だ。2018年に全米アマをノルウェー人として初めて制した後、’19年にはマスターズで32位に入ってローアマを獲得し、アマチュア世界ランキング1位となった。さらに同年の全米オープンでは、アマチュアとしての大会最少スコアを更新して12位に入り、メジャー2大会連続でローアマに輝くと、マシュー・ウルフ、コリン・モリカワらとともに注目選手の1人としてプロ転向した。
プロ転向後の’20年にはプエルトリコ・オープンでツアー初優勝し、ノルウェー人として初のツアー制覇を果たし、今回はノルウェー人初の年間王者だ。ノルウェーはそれほどゴルフが盛んな国ではなく、ホブランドもジュニア時代はインドア施設で練習していたというから、何をやっても「ノルウェー初」となるのも当然かもしれない。
地道な練習で苦手を克服
ホブランドがデビューしたての頃、PGAツアーの練習エリアの片隅で黙々と練習する姿を見たことがある。アプローチエリアの空いていたスペースに、100ヤード先まで5ヤードおきに目印のカラーコーンを置いて、黙々とピッチショットの練習を続けていた。ツアー会場でここまで細かく距離を設定してアプローチショットの練習をしている選手は珍しかったため、「体格には恵まれていないが、クレバーな選手なのできっと伸びるだろう」と思ったことを覚えている。
また、2022年のZOZOチャンピオンシップでも初日のスコアが1アンダーとスコアが伸びなかったため、強い雨が降っていたにもかかわらず1人居残って練習を続けるなど、練習量が多い努力家の一面もある。
もともと、ショートゲームが弱点だったが、ピート・コーウェンら複数のショートゲームコーチに指導を受けるなどして、アプローチショットの改善とバリエーションを増やしてきた。2023年1月にはデータ分析に精通するジョー・メイヨーに師事し、バイオメカニストによるスイング分析を行うなど、自らのスキルをアップデートしてきた。その結果、苦手としていたショートゲームを克服し、昨シーズン59.38%(99位)だったスランブリングが、今シーズンは62.10%(41位)に改善した。自分の弱点を分析して必要な教えを受け、多くの練習を重ねて強くなったクレバーさと勤勉さを兼ね備えた選手といえるだろう。
踏み込みから下半身主導で運動連鎖を導く
ホブランドのスイングの特徴は、下半身を積極的に使ってバックスイングしていることだ。ホブランドのバックスイングの右膝の動きに注目すると、始動で一瞬曲がりが大きくなり、その後に膝の角度が伸びていく。この右膝の動きは近年のPGAツアー選手によくみられる動作で、バックスイングの始動で右足を踏み込み、右膝を伸ばす動きに連動して上半身を回転させている。
切り返しでも下半身から動きだすことによって、インパクトで体を先行させてフェースをスクエアにしている。ホブランドは身長178センチでPGAツアー選手の中では体格には恵まれているほうではないが、下半身をアグレッシブに使うことで307.6ヤード(42位)の飛距離を生み出している。
ホブランドのように、右サイドをアグレッシブに使うバックスイングをマスターするためのバックステップドリルを紹介しよう。
バックステップドリルはスタンスの幅を狭くして構え、右足を真横に一歩踏み出してバックスイングを始動する。踏み出した右足で地面を踏み込み、その反力を利用してクラブを勢いよく上げていく。左腕が地面と平行になるくらいの高さにきたら、今度は左足をその場で踏み込む。クラブが惰性でトップ付近に上がる間に、下半身の動きによってクラブが振り下ろすことができる。
こうして下半身主導でスイングすると、下半身→上半身→下半身という順番で運動連鎖をスムーズに行うことができ、手や腕に力を入れなくても体の動きによってクラブを加速してフィニッシュまで振り抜くことができる。
バックスイングでスイング軌道がぶれないようにゆっくりクラブを上げるアマチュアがいるが、バックスイングで勢いをつけないと飛距離を伸ばすことは難しい。加えて手打ちやオーバースイングの原因にもなるので気を付けたい。
こうした下半身主導の動きと運動連鎖を身に付ければ、スイングの再現性が高まると同時に、最大限の力をボールに伝えて遠くに飛ばせるようになる。ぜひ、練習に取り入れてみてほしい。