世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子・吉田洋一郎による、最新ゴルフレッスンコラム52回目。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。
青木功に立ちはだかった’80年の全米オープン
4大メジャー(マスターズ・全米オープン・全英オープン・全米プロ)における、歴代最多勝利はジャック・ニクラウスの18勝だ。現役最多がタイガー・ウッズの15勝ということを考えると、その偉大さがわかる。
1980年の全米オープン。ニクラウスは8年間遠ざかっていた全米オープンのチャンピオンに返り咲いた。この大会で4日間を同じ組で回り、最終日まで激闘を繰り広げたのが青木功だ。青木が記録した最終順位の2位は、当時日本人としてのメジャー最高順位だった。ニクラウスと青木の戦いはバルタスロールの死闘と呼ばれ、今もなお語り継がれている。
この時にニクラウスとタッグを組んでいたのが、ショートゲーム専門コーチ、フィル・ロジャースだ。フィル・ロジャースは米国で「ショートゲームの神様」と知られるポール・ラニアンから直接指導を受け理論を確立してきた。前年頃からアプローチのスランプに陥っていたといわれるニクラウスにティーチングを行い、見事に優勝に導いた名伯楽だ。
リスクを排除するロジャースのアプローチ
私自身もロジャースの教えに触れたくて、カリフォルニアまで会いに行き直接レッスンを受けたことがある。その中で衝撃を受けたのは「アプローチのボール位置は、ドライバーと同じくらいでもよい」というものだった。
一般的にアプローチでは右足寄りにボールを置き、ハンドファーストでボールをとらえることがセオリーとされている。ロフトが立っていることで、スピンをかけやすいからだ。アマチュア向けには、よりフェース面がボールを拾いやすいようにスタンスの真ん中くらいにボールを置くことをすすめることもあるが、左足寄りに置くというレッスンは聞いたことがなかった。
「アプローチで大事なのは点ではなく、ゾーンでボールをとらえることだ」
理由を尋ねた私にロジャースはそう言った。
右足寄りに置くほどヘッドの入射角が鋭角になるため、インパクトは「点」になる。少しでもヘッドが手前に落ちればザックリになってしまう。
一方ヘッド軌道の最下点、もしくはそれより左寄りにボールを置けば、多少ヘッドが落ちる地点が手前になってもバウンス(ソール部分の出っぱり)が芝の上をすべってヘッドが刺さらずフェースがボールを拾う。
熟練のプロであってもプレッシャーがかかった場面などでは、ヘッドのコントロールが普段通りにできないことがある。そんなときヘッドがボールの手前に落ちたとしても、結果ミスにつながらない打ち方のほうが、スコアメイクに寄与するというのがロジャースの考え方の根幹にあったようだ。
徐々にボール位置を左寄りにずらす
プロであってもミスを前提とした打ち方をするのだがから、再現性の高くないアマチュアにこそこの打ち方は合っていると言える。急にボール位置を変更すると打ち方まで変わってしまい方向性が出にくくなる。まずは練習から少しずつ左寄りにボール位置をずらしてみよう。この時、ハンドファーストの形には固執しないことがポイントだ。ボール位置を左寄りにしてもハンドファーストをキープしようとすると、手元が先行するためダフリのミスが出やすくなる。インパクトに向けて徐々に手首の角度を開放するリリースの動きを入れると適度にヘッドが走ってバンスを使いやすくなる。ロングアイアンのようにシャフトが垂直になるように構えれば、バウンスを使ってボールを上手く拾うアプローチが身につくはずだ。