役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、全国公開中の『雌鶏』。

神様、もし願いがかなうなら、滝藤を8人にしてください
今回ご紹介する作品は、ギリシャ・ドイツ・ハンガリーによる合作映画『雌鶏(めんどり)』。その冒頭は、江戸時代の俳人である小林一茶の句「露の世は露の世ながらさりながら」から始まります。
えっ? 雌鶏が主役? いったいどういうことなんだ? これは子豚が主役の映画『ベイブ』的なやつか? 雌鶏にアテレコするのか? おいおい雌鶏が芝居してるぜ。しかも“コケッ”しか言わないのが逆に削ぎ落とした芝居で、excellent!。これをCGやAI、特殊効果などを使用することなく、全編を本物の雌鶏が演じたとか。すごすぎるだろ。公式HPを見ると主演を8羽の雌鳥で役割分担。狂ってる。こんなことなぜやろうと思ったのか。しかもやりきってしまうのだから狂気の沙汰だ。
ハンガリーのトップ動物トレーナーであるアルパード・ハラシュさんが撮影1ヵ月前から訓練。そしてそれぞれの雌鶏の走る、じっとする、跳ぶなど、個性を見極め、得意技を活かして撮影を行っています。滝藤も8人いて、それぞれが得意分野で力を発揮すれば、前人未到、誰も行ったことのない境地に行けるかもしれないと、嫉妬に狂いましたよ。
さらにニワトリは周囲の緊張感に敏感なので、撮影隊は終始笑顔でリラックス。なんて最高の現場なんだ! 俳優だって周囲の緊張感に敏感ですよ! こんな恵まれた環境なら、雌鶏もいい芝居しますよね。至れり尽くせりだな。羨ましすぎる。ここまできたら主演女優賞獲るとこ見てみたいわ。
主人公の雌鶏は黒色に生まれたため、卵から孵った瞬間に食用へ選別される。しかし出荷用トラックから脱走。自由と引き換えにリスクを抱え、ギリシャからヨーロッパの国境をこえるという大冒険をします。
ちなみにニワトリは演出意図の覚えはよく、賢いそうです。でも、数日経つと忘れてしまうので、毎日の練習が大事とのこと。コツコツ続ける。なるほど。人間も同じですね。私なんか言われたそばから忘れてますから。なんだか妙に親近感を抱いてしまいました。
『雌鶏』
ハンガリーの鬼才、パールフィ・ジョルジ監督が、世界初・ニワトリを主演にし、雌鶏から見たヨーロッパ社会のシビアな現実を乾いた笑いで描いた作品。2025年のトロント国際映画祭プラットフォーム部門にて審査員特別賞を受賞している。
2025/ギリシャ・ドイツ・ハンガリー合作
監督:パールフィ・ジョルジ
出演:雌鳥(エスティ、サンディ、フェリ、エンチ、エティ、エニクー、ノーラ、アネット)ほか
配給:ハーク
シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中
https://hark3.com/mendori/
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。映画『八つ墓村』が絶賛公開中。また10月9日に『遥かな町へ』、11月28日に『戦場のボヘミアン カメラマン 石川文洋』など出演作が公開予定。

