今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、アジアン・カンフー・ジェネレーションの『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』。
江ノ電を舞台に終わらない青春を掻き鳴らす
日本のロックバンド、アジアン・カンフー・ジェネレーションの新作は、2008年にリリースされた名盤『サーフ ブンガク カマクラ』の「完全版」だ。
15年前のアルバムは「藤沢ルーザー」や「江ノ島エスカー」など、江ノ電の駅を曲名のモチーフに若者の心情を描く全10曲収録のコンセプト作品だったが、この「完全版」では、柳小路駅から曲名をとった「柳小路パラレルユニバース」などの新作5曲を追加。既発曲10曲も再録し、江ノ電の全15駅を網羅した内容となっている。
アルバムの聴きどころは、アジカンらしい遊び心の数々だ。アルバムのタイトルは、ウィーザーの『サーフ・ワックス・アメリカ』へのオマージュ。桑田佳祐の名作映画をもじった「稲村ヶ崎ジェーン」では、ビートルズのメンバーの名前が歌詞に登場する。「日坂ダウンヒル」では「諦めたらそこで試合は終了」と、アニメ『SLAM DUNK』の聖地にもなったこの場所をイメージさせる言葉が歌われる。
メジャーデビュー20周年。ロックバンドとして円熟の境地に達しつつある彼らだが、鳴らされている音は瑞々しく爽やかなパワーポップ。まるで“終わらない青春”が封じこめられているかのようなアルバムだ。
Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』などがある。