すべての記憶を失った男の心に刻まれていた思い出
今回の作品は、すごく変わった病が流行っている世界の話。その病とはなんの前触れもなく、ある日突然、すべての記憶をなくしてしまうというものなのです。きゃー! 恐い! でもなんだか羨ましい!
監督はギリシャの方。この長編初監督作を大女優、ケイト・ブランシェットが大絶賛。次回作のプロデュースまで買って出たというから、その才能、観ずにはいられません!
どこの国とも町とも紹介されないので、演出がギリシャ的なのか、そうでないのかの判断すらできませんが、登場人物はお洒落で住んでいる部屋も素敵な家具や照明がシンプルに配置されている。
主演の俳優もまったく知らない中年男性。余計な情報がない分、本当に記憶を失った人にしか見えない。バスでうたた寝して、終点で起きた時にはもう、自分が誰だかわからない。身元不明の場合は病院に収容。家族の迎えが来ない人は政府の用意した新生活を始めるためのプログラムを受けることになる。
ある日の指令は「ホラー映画を観に行く」、またある日は「仮装パーティに参加する」。実行した証をポラロイドで撮ればミッション完了。正直、プログラムにどんな意味があるのか、さっぱりわからない。でも、記憶を失った生活がなんだか羨ましく見えてくるのです。リセット願望を刺激されるといいますか……。
いや、滝藤は今の生活に満足していますよ。家族にも仕事にも恵まれていて、記憶を失うなんてとんでもないことです。でも、ここまでSNSが発達した社会において、一度の過ちが一生、デジタルタトゥーとして残り、誰かに蒸し返され、ぐちぐちと言われてしまう。俳優なんてその筆頭です。皆さん、忘れるってことの寛容さを取り戻しませんか、と思ったりするんですよね。私だけかな。
ところで、担当編集者さんはずっと、記憶を失っていないのにフリをしている男として観ていたそうです。確かに……思い返してみると……。観る人によって違う視点になるのも面白い! この映画、かなり奥が深いッス。
『林檎とポラロイド』
2020/ギリシャ=ポーランド=スロベニア
監督:クリストス・ニク
出演:アリス・セルヴェタリスほか
配給:ビターズ・エンド
3月11日よりヒューマントラストシネマ有楽町、
新宿武蔵野館ほか全国公開
ある日突然、記憶を喪失する奇病が蔓延する世界での話。記憶を失った主人公は政府の用意したプログラムに参加。覚えているのは林檎好きなことだけ、という男が新生活を再び構築していく姿を、ミニマムな演出で見せていく。主人公の装いがお洒落で、洋服好きの滝藤さんも「ぜひ真似したい」と絶賛。
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。主演を務める、BS松竹東急の土曜ドラマ『家電侍』が4月2日の23時よりスタート。もしも、江戸時代に最新家電が届いたら……。史上初の家電SF時代劇!