ENTERTAINMENT

2022.01.29

おなじみの昔話の続きが気になるという新体験──連載「宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー」

幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお、頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意した漫画家が、数々のジブリ作品を鑑賞後、その感想を漫画とエッセイで綴った連載をまとめて振り返る。

ジブリ10

『ゲド戦記』

「宮川さんは宮崎監督よりも高畑監督派なんですね」

昨年末に漫画家の先輩・田中圭一先生からツイッターでそんなコメントをいただきました。田中先生はアニメにもお詳しいので、私のレビューから、アニメソムリエ的な視点でそうおっしゃってくれたのでしょう。私は、サディストかマゾヒストかを診断する心理テストで、ズバリ言い当てられた時のような、ちょっとだけ気恥ずかしいような気持ちになりました。(マゾヒストなので嬉しくもありましたが……そもそも読んでいただけてたことが嬉しい~)

……確かに、おっしゃる通りかもしれない。私は慌てて自室にこもり、これまでのジブリ童貞レビューをすべて読み返しました。マイジブリランキングの1位は『もののけ姫』ではあるものの、『平成狸合戦ぽんぽこ』『おもひでぽろぽろ』のレビューには、妙に肩入れしているというか……熱がこもっているように感じました。

隣の部屋では妻と娘が昨年末の紅白歌合戦でのユーミンのステージ(録画)を何度も繰り返し見て、『魔女の宅急便』のテーマ曲を一緒に歌っています。

宮崎作品をもっと深く理解しないといけないな、そう思いました。

焼き鳥屋さんだったら、タレ(宮崎)の味をロクに理解もしないで、「ここは塩(高畑)がイイんだよ……」なんて通ぶってるのと同じじゃないですか。……同じじゃないか……いや、どっちにしてもですよ、この連載を続けていく上でこんなにダサいことはないと思うんです。

次はリアル路線ではなく、寝言系ファンタジーを観なければいけない。そう決めた私は、完全にジャケット判断ですが、この作品でジブることにしました。

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『風立ちぬ』

まず、マンドリンのシンプルなBGMと、何の小細工も無く『風立ちぬ』のタイトルだけで静かに始まる今作は、小津安二郎監督のような古き良き日本映画を思わせるような、日本人の生活様式を丁寧に見せていくこの小津調のオープンニングによって……って、あ、ごめんなさい……小津安二郎の映画とか別にそんな観たことなくてですね、カッコつけてつい映画通のフリをしてしまいました。

でもなんかそういう感じの「ザ・日本映画」という空気×ジブリカラーで描かれたグリングリン動きまくるアニメーションとの融合に、おっ、これはいいな、好きなやつだ〜(Blu-ray買って良かったな〜)と、開始5分で嬉しい気持ちになりました。純和風の風景と、冒頭で主人公が見る夢の中に登場する得体の知れない影のようなクリーチャーが醸しだす宮崎ファンタジー感が、なんとも新し懐かしい。期待は上がるばかり。

主人公は秀才系メガネ男子、トトロや魔女の宅急便のお父さんを彷彿とさせるキャラクターデザイン。これにももう慣れたというか、むしろ「好きの領域」に入ってますね。同じ形のロイド眼鏡買ったろかなとさえ思えるところまで、どうやら私の中のジブリの芽も成長してきたようです。

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『かぐや姫の物語』

今から17年前、平井堅さんが「大きな古時計」をカバーして大ヒットした2002年、ド田舎の隅っこで大学生をやっていた私は、その「敢えて今、大きな古時計をカバーしちゃいました」感に、言いようもない苛立ちを感じていました。まだ若くて今よりも元気があったのでしょう、有り余ったエネルギーの弾を何かに思いっきりぶつけたくて、でも表現する手段が思い浮かばなくて、手っ取り早くリビングにあったTOSHIBA製の四角い箱の枠の中にうつる流行り物のすべてに、片っ端からツバを吐きかけながら生きる……そんな青春時代を過ごしていたように思います。

きっともっと早いうちからジブリ作品を観ていれば、あの時兄がジブリを家の中から追い出さなければ。友人も恋人も、文化祭もバンドも、セックスだってもっともっと……いや、やめましょうこんな話は。内側に向かって否定の言葉を投げかけたところで何もいいことなんか無いってことを、40歳になった私は知っています。

それよりむしろ今の自分を祝福したいのです。この歳になってジブリを観始めて高畑監督を知り、え!? ジブリが竹取物語をアニメ化したのは知ってたけどあれって高畑監督だったの? マジで? 見る見る!……え? 平井堅の「大きな古時計」は鼻についてたのに、ジブリの「敢えての竹取物語アニメ化」はアリなのかって? いや全然アリ! アリアリ! アリーヴェデルチ! だって気になるじゃん! あの高畑監督だよ? 普通にはやらないしょ〜? っていうか早く見ようぜ〜? ……と、目を輝かせて言えるようになった自分を祝福してあげたいのです。

……というわけで、今月は『かぐや姫の物語』を観てジブりました。桜のようなピンクのジャケット(Blu-rayパッケージ)が春先の今の季節にぴったりでした。

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