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2019.03.29

宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー vol.11『風立ちぬ』

幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意した漫画家が、数々のジブリ作品を鑑賞後、その感想を漫画とエッセイで綴る。

『風立ちぬ』レビュー

前回のゲド戦記のレビューが2月の頭公開だったので、およそ2ヵ月ぶりになりますね。

ここらで少しおさらいの意味でも、これまでのジブリ童貞の流れを振り返っておこうと思います。レビューにあらすじも何もないですが、ジブリと筆者との距離感が地味に重要な連載なので……振り返り妄想ジブリ漫画にお付き合いください。


……というわけで、今回は『風立ちぬ』でジブってみようと思います。ゲド戦記で感じることができなかった風は吹いているのでしょうか。吹いてるんだろうな……風立ちぬって言ってるし

あ……これ、好きなやつだ……

まず、マンドリンのシンプルなBGMと、何の小細工も無く『風立ちぬ』のタイトルだけで静かに始まる今作は、小津安二郎監督のような古き良き日本映画を思わせるような、日本人の生活様式を丁寧に見せていくこの小津調のオープンニングによって……って、あ、ごめんなさい……小津安二郎の映画とか別にそんな観たことなくてですね、カッコつけてつい映画通のフリをしてしまいました。

でもなんかそういう感じの「ザ・日本映画」という空気×ジブリカラーで描かれたグリングリン動きまくるアニメーションとの融合に、おっ、これはいいな、好きなやつだ〜(Blu-ray買って良かったな〜)と、開始5分で嬉しい気持ちになりました。純和風の風景と、冒頭で主人公が見る夢の中に登場する得体の知れない影のようなクリーチャーが醸しだす宮崎ファンタジー感が、なんとも新し懐かしい。期待は上がるばかり。

主人公は秀才系メガネ男子、トトロや魔女の宅急便のお父さんを彷彿とさせるキャラクターデザイン。これにももう慣れたというか、むしろ「好きの領域」に入ってますね。同じ形のロイド眼鏡買ったろかなとさえ思えるところまで、どうやら私の中のジブリの芽も成長してきたようです。

テーマは……また飛行機かい! 監督も好きでんな〜!

宮崎監督の飛行機好きは、武田鉄矢さんの坂本龍馬好きみたいなもので、ほとんど病気だと認識してはいるものの、正直『紅の豚』でもいまいち乗っかれなかったんですね。紅の豚に関しては、飛行機シーンの良いところを探しながら観てたような印象が残っています。

ただ今回はそれとはちょっと様子が違っていて、鼻につかないというか、飛行機の描かれ方が”生き物”みたいなんですよ。ナウシカの巨神兵に近い存在というか……あれ? 今私、ジブリをジブリで例えました……よね? これは私もいよいよだな……困ったな……この前も連載漫画の担当氏に「今回のネームのこのシーン、ジブリっぽいですね〜」って言われたしな……いやいや! それより、ですよ。

風立ちぬの飛行機は、エンジンとかの機械音や飛び立つ音とか、人間の声で再現してるように聞こえるんですよ。違ってたらごめんなさいですが、ボイパっていうんですか? マイクがツバで臭くなりそうなあれですが、おじさんがクチビルを震わせて出してるような機械音に妙に生々しさがあって、機体の描き方も空中分解の様子もまるで命があるかのようなんです。

これはどうやら、これまでの「飛行機好きが趣味に走る作風」とはちょっと気合いの部分で違うんだなと、飛行機に全く興味の無かった私にもそれがビリビリ伝わりました。

飛行機=モテ、ガンダム=非モテ……って気がしてくる

ついでにここで私の話をすると、子供の頃から飛行機よりも人型ロボット……ガンダム的な物が好きだったので、娘の保育園に通う男の子たちの電車へのハマりっぷりとかが今もって理解できていないんですね。さらに余談になるかもですが、ロボット好きの方が電車や飛行機好きより恥ずかしいというコンプレックスもありまして……ロボットには現実味がなく、飛行機や電車は実用性があるからなのでしょうか、なんか女の子に知られたら恥ずかしいぞって考えていたんです。

小学生の頃、近所の模型屋さんに私が作ったガンプラを名札付きで飾ってもらってたんですが、給食の時間にクラスのマドンナHさんに「お兄ちゃんについて模型屋さん行ったら宮川君のガンダムが飾ってあったよ、凄いね!」って言われた時は、「し、知らねぇし……あとあれはガンダムじゃなくてグフだし……」と、冷たい態度をとってしまったことを今でも鮮明に覚えております。

今回の『風立ちぬ』に込められた宮崎監督の飛行機好き度の純度が非常に高くてですね、あんなまゆ毛以外全部白髪のお年で、あの清々しいほどの少年性を作品に落とし込めるのはスゲェなと、そしてなんとも悔しいというか……別に私は映画を作る立場ではないのですが、飛行機を愛している主人公・堀越二郎(宮崎監督自身)が、ガンダム好きの自分よりモテてる感じがして、ちょっとだけションボリしてしまったということも一応書いておきます。

そもそも実在する人物が主人公の映画に弱い

そういう映画に弱いんですよ、すぐ泣きたい気持ちになってしまう。最近だとイギリスのロックバンドQueenの……と今更説明するのも恥ずかしくなってくるぐらい鬼ヒットした『ボヘミアン・ラプソディー』みたいな作りの映画で、エンドロール直前に当時の実際の写真と「フレディの死後、メンバーによりマーキュリーフェニックストラスト基金が発足ー」みたいなテロップで史実を解説するパートってよくありますが、あの時間がめちゃくちゃ好きでして、この『風立ちぬ』のなかでも何度か出てくる「堀越二郎に捧ぐー」みたいなテロップを見る度に、あぁ、実話に基づいてるんだ……と、涙腺をワジワジさせていました。単純にドキュメンタリー要素に弱いのです。

大河ドラマの最後の数分間で実在する名所とか博物館を見せてくれるコーナー、あれなんかも大好きで、ウチの奥さんがあれを見ずにテレビを消そうとして口論になったこともあります。

名作の予感、しかし……大人になった主人公の声がテレフォン人生相談加藤諦三先生の声

大人になった主人公・二郎の声を聞いた時、「まじかよ」と思わず声が出ました。……ヱヴァンゲリヲンの庵野秀明監督が声をあてたということは、映画公開時にやっていたエンタメ番組等で見かけて、その評判が良くなかったということもなんとなく知ってはいたのですが……まさかここまで水分の無い声だとは……。

メガネ男子の見た目と声が合ってなさすぎて、年齢設定もよくわからなくなってしまうぐらいのチグハグさ。最初、テレフォン人生相談の加藤諦三先生が話し始めたのかと勘違いしてしまいました。加藤諦三先生の声をご存じない方は、Y◯uTubeで検索してみてください、息子さんとの親子関係に悩む元女教師が、自己主張が強すぎて加藤先生とマドモアゼル愛先生をブチギレさせてしまう回なんかがおススメです。

とにかく、スペイン語版のドラえもんとかアラレちゃんの違和感しかないアニメを見させられてるみたいな感覚。幼少期の声はあんなに瑞々しかったのに、どうした二郎……丸呑みしたうずらの玉子が喉に詰まったまま大人になったのか……。

……いやいや!違うんですよ! 正直こういう物語の本筋とは関係ないところをつつく話はしたくないんですよ……。せっかく良い映画を観ても「オダギリジョーの襟足が気になって話に集中できなかった〜」とか、「あれで一気に冷めた〜」とかそういう感想しか言えずに、本質を見失うような人間にはなりたくないんです。

きっと途中から慣れる! 宮崎監督が安易にV6の岡田君とかをあえて起用しなかった狙いが絶対あるはず! そう信じて観続けました。

結論:あの声で良かった気がしてきた

『風立ちぬ』は戦闘機を作った男と、その妻の生き様を描いたお話でした。散々語り尽くされている戦争の悲惨さや虚しさは他の作品に全て任せてしまって、憧れているモノや愛するヒトと一緒に過ごす時間に没頭する生き様を徹底的に描いているストイックぶり。

また、飛行機が人殺しの道具になり得る矛盾について、矛盾は矛盾のままに描ききっているスタイルにもシビレました。

ただ、それらが二郎の声の演技力の低さのため(アニメ監督なので演技力なんてなくて当然)、1周目ではそのシビれポイントに気づけなかったんですね。二郎の声の中に弱音や葛藤が感じられないために、実際の堀越二郎さんがそういう苦労を感じさせない人物だったのかもしれないけど、そこが相当わかりづらかった。

飛行機作りの天才・二郎が設計した零戦は、一機も帰ってくることなく終戦を迎えます。そして最愛の妻・菜穂子も病で失ってしまう。そんな二郎にこの世を去った菜穂子は、二郎の夢の中で「生きて」と語りかけます。

……確かに。もう生きる意味を失ってしまっているわけですから、ここは「生きて・生きねば」なんでしょう。辛い突風が吹いたあと、人はどう生きるか?みたいな話で。

自分も今の妻と娘がいなくなったら、後追いしないと言い切る自信が無いですし、ネットゲームとかで廃人になるか、想像する限り、少なくとも新しい何かを作りだす元気は出てこない気がします。

もともと生きてるか死んでるかギリギリのところを漂っているようなシワシワの声の二郎に、妻からの「生きて」のメッセージ。これに対して、二郎はカスカスの声で「ありがとうありがとう……」と答えます。これがこの映画での二郎の最後のセリフ。

これを聞いて、あぁ、そうかと。傷ついてヘトヘトになったくたびれた飛行機設計士の声には、自分で作ったヱヴァンゲリヲンとヱヴァに魅せられた人たちに縛られてクタクタになって仕事をしている(全て憶測)庵野監督の天然の声が、宮崎監督の中で一番近かったんだろうなと。

3周見ても結局あの声に慣れることはなかったのですが、あの声にしか出せない哀愁はこれを書いている今も強く残っているので、監督の狙いはそこにあったのかもしれません。

ユーミンの「ひこうき雲」をリピートで聴きながら……それではまた、お会いしましょう。

次回のジブリ童貞は?

前回、皆さまから「そろそろポニョ行け、ポニョはええでよ」というご意見を多数いただきましたので、ポニョってみようと思います。……ポニョじゃなかったらごめんなさい。

いよいよジブリ作品も少なくなってきた感じがしますね。ジブリ、ジブリ……と終わりが近づいているのを感じております。

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