最新作『茜色に焼かれる』では風俗店で働く25歳のケイを熱演
今はまだ、片山友希という名前に反応する人は、よほどの映画&ドラマ好きに限られているかもしれない。役柄によって印象がまったく違うため、一般的な認知を得るには少々時間を要しているが、それは彼女が俳優として優れていることの証明になっている。
彼女が最初に鮮烈なインパクトを残したのは、サラリーマンと援助交際する高校生を演じた、2018年の映画『ここは退屈迎えに来て』だった。
「ずっと自分を清楚系やと思ってたんですけど、最初に受かったのがこの役で、『私、清楚系やないんや……』と自覚しました。当時は全然仕事がなくて、あのオーディションに受かっていなかったら、地元の京都に帰っていたかもしれません。ちなみにそのあとも、幸せになれない役が多いです(笑)」
石井裕也監督の最新作『茜色に焼かれる』では、主人公の良子(尾野真千子)と同じ風俗店で働く25歳のケイを熱演。台本を渡される前に石井監督から呼ばれ、女優としての覚悟を聞かれたという。
「すぐに答えられなかった自分が悔しくて、その帰り道の恵比寿から渋谷まで、雨の中を泣きながら歩きました。役が決まってめちゃくちゃ嬉しかったんですけど、自分にこの役を演じられるかどうか、撮影中もずっと不安でした。私はいつも、役について考えたことを台本に書きこむんですけど、今回は書いたものを全部消しました。"考えてる風"で不安をごまかさず、演じる怖さに克つ。それが、自分なりの"覚悟"やったんです」
自分の弱い部分について、気取りのない京都弁で振り返る。役作りについても「今回はできませんでした」と恥ずかしそうに打ち明ける。
「風俗の仕事をされている方の本やドキュメンタリーを読んだり見たりしたくらいで、あとは台本をひたすら読み返しました。あと、ちょうど年金の請求書が届いて『はあ……』とため息が出たんですよ。『これってお金のないケイちゃんも感じることやろうな』とか、共通点を探したりはしました。若い女ということで舐められた経験を思いだして、ムカついたりも」
良子とケイの運命は、あまりに理不尽で、時に残酷だ。しかし、現場はポジティブなエネルギーで満ちていたという。
「監督を中心に、全員に熱量があって、いい緊張感がありました。何より尾野さんの明るさが、現場と作品を照らしていたと思います。本番での切り替えもすごくて、『尾野さんみたいになりたい』と思ってしまったんですけど、尾野さんは尾野さんでいろいろと悔しいこととかを経験して今があるはずやから、簡単に『なりたい』なんて言ったらあかんと反省しました」
躍動する細長い手脚、物言いたげな唇、ショートボブが引き立たせる涼しげな首筋が、スクリーンで絵になる彼女。着実に役が大きくなっている流れのなかで、「東京でやりたいことをやれている喜び」を噛み締めつつ、「調子に乗って、しんどかった京都時代を忘れたら終わり」と自分に言い聞かせる。
「20代前半の女で、アンニュイやったら、多分そこそこ仕事は来ると思うんです。でも、その年齢を超えたら、仕事は絶対に来なくなる。仕事を舐めていたわけじゃないですけど、正直、楽しいほうに流されていた部分がありました。この仕事をこの先も続けるためには、もっと真剣にならなあかんと思いました」
自分の立ち位置を冷静に、かつ客観的に見つめるのは、仕事に対する思いが熱いから。
「これから先も熱量があって、自分が甘やかされない現場に参加したいです。『茜色に焼かれる』は、俳優人生のターニングポイントになったと思います」
『茜色に焼かれる』
監督:石井裕也
出演:尾野真千子、和田 庵、片山友希ほか
尾野真千子が4年ぶりに単独映画主演。7年前に、夫を“上級国民”に轢き殺された主人公と、中学生のひとり息子が、数々の理不尽に見舞われながらも、たくましく生きる姿を描く。脚本・監督は『舟を編む』の石井裕也。