役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
テニスの歴史的名勝負の裏に隠された、男たちの葛藤に心打たれる!
「氷の男と炎の男」とタイトルにはあるのですが、本質的にはとても似ているふたりのライバル関係を描いた実話のドラマです。
滝藤、乗馬や縄跳びなど自分ひとりでもできるスポーツは好きですが、シャイゆえに対面スポーツは避けてきて、テニスにも疎い。だから、ボルグもマッケンローのことも、〝テニス史上、屈指の名試合〞と言われる1980年のウィンブルドン選手権のことも、まったく知りませんでした。だから単純にドラマティックな試合の展開にワクワクしました。
映画冒頭で引きこまれたのが、氷の男・ボルグのある行動。寡黙でクールな彼は 連覇を期待されるなか、ホテルのバルコニーにある手すりで腕立て伏せをするんです。真下には足がすくむような景色が広がり、少しでも手をすべらせたら一巻の終わり。単なる筋トレか、それとも死にたがっているのか、または、己の恐怖心に打ち勝つための行為なのか......。ボルグが、生きるか死ぬかの極限の精神状態に身を置いていることがわかり、彼への興味が一気に膨れ上がりました。
一方、炎の男・マッケンローは超わかりやすい(笑)。喜怒哀楽が激しく、審判や観客への抗議、暴言もひっきりなし。
マッケンローは『マン・ダウン 戦士の約束』での演技で好印象を持っていたシャイア・ラブーフが演じているんですが、今回、相当身体を絞りましたね。ボルグをよりクールに見せる引き立て役、嫌われ者という役を、嬉々として演じていました。
私も横山やすしさんという国民的スターを演じたことがありました。関西人でも芸人でもない私にはハードルの高い役で及び腰でしたが、役を通して天才の破天荒な人生を生きるのは本当に痺れる体験です! 今回のふたりもきっと相当な思いで臨んだのでしょう、羨ましい......。
激しいライバル関係にあったふたりですが、引退後は、よき友となったそうです。過酷な時代をともに生きたからこそ、わかりあえるものがあるものです。私も苦楽をともにした友人に会いたくなりました。
『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』
20歳の若さで、ウィンブルドン選手権で初優勝し、4 連覇の記録を打ち立てたスウェーデンのビヨン・ボルグの前に、アメリカの悪童、ジョン・マッケンローが挑む。1980年のウィンブルドン決勝戦のドラマをデンマークのヤヌス・メッツが映画化。
2017/スウェーデン、デンマーク、フィンランド
監督:ヤヌス・メッツ
出演:シャイア・ラブーフ、スベリル・グドナソン、ステラン・スカルスガルドほか
配給:GAGA
8月31日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開