役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
ゲイリー・オールドマンの演技は、役者になりたい、そう思わせてくれた原点
ある意味、ぶっ飛んだ要素を持った俳優でいたい。
僕がそう痛烈に感じたのは『シド&ナンシー』のシド役で狂ったようにシャウトするゲイリー・オールドマンを見た時です。さらに’90年代の彼はヤバかった! 『ドラキュラ』『トゥルー・ロマンス』『レオン』に『フィフス・エレメント』……。彼ほど悪役をモノにし、スターダムにのし上った人はいないのではないでしょうか?
ついに、そのゲイリー・オールドマンがアカデミー賞主演男優賞の最有力候補です(授賞式は3月4日)。最近、トゲがなくなってしまったように感じていましたが、なんのその。還暦を目前に英国首相ウィンストン・チャーチルという役を呼び寄せ、演じ切ったんですから、やっぱり役者って仕事は面白い。
映画は1940年5月、ヒトラー率いるドイツ軍がベネルクス三国とフランスへ侵攻を始め、イギリスへの侵略も時間の問題に。その最悪な状況で首相に任命されるのがチャーチル。
注目すべきは精巧な特殊メイク。本来まったくチャーチルに似ていないゲイリーの顔を本人に近づけたのは、日本人のアーティスト辻一弘氏。私も『テラフォーマーズ』では昆虫人間、『関ヶ原』では秀吉と立て続けに特殊メイクを経験しましたが、これ大変なんです。朝4時にメイク室に入り、メイクアップアーティストと作業スタート。といっても、私はただ座っているだけ、6時頃になると、ちらほらスタッフが出勤してきて、7時頃にようやく俳優たちが入ってくる……。自分の役を大きく手助けしてくれるとはいえ、正直キツイ……。そして、メイクをはがす作業も1時間以上。私は4〜5回だったのでまだ耐えられましたが、今回のチャーチルは総メイクアップ時間200時間以上というから驚き。それだけでもゲイリー・オールドマンのチャーチルにかける思いが伝わってきます。
ああ、私もこんな役を演じたい。チャーチルのように存在感がある人物って、日本でいうと吉田茂元首相でしょうか? 日本版チャーチルを演じる妄想が止まらない滝藤でした。
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』</strong
2017年/イギリス監督:ジョー・ライト
出演:ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズほか
配給:ビターズ・エンド/パルコ
3月30日より全国公開