クルマを語らせれば、誉め言葉も悪グチも遠慮なし──。作家・モータージャーナリスト 沢村慎太朗が、業界人から届く愛車相談に本気で答える新連載がスタート。記念すべき第1弾はポルシェ911乗りの38歳独身ピアノ弾き。愛車遍歴に新たな一台を加えるべきか──その問いに、「愛」と「毒」でぶった斬る。

数少ない「本物のスポーツカー」
どうもこんばんは! 沢村慎太朗です。今日からはじまりました、新連載。クルマ好きから届いたお便りに、僕が好き勝手しゃべっていこうと思います。さて、記念すべき最初のお便りはこちら。
「38歳独身、クルマ好きピアノ弾きです。ポルシェ911の991型に乗っているんですが一度はFD3S型マツダ RX-7に乗っておこうかなと思っています。根っからのMT派で、出身が広島なので(笑)。沢村さん、この選択肢、どう思いますか?(ジャズピアニスト 大林武司)」
おおっと、第1回からパンチの効いた相談が届きましたねぇ。FD3S(エフディースリーエス)型てえと、3代目にして最終のマツダ RX-7ですね。結論から言えば、日本では数少ない「本物のスポーツカー」です。……ただし、乗りこなせる自信と心意気があるなら、の話ですが。

“エフディー”がどーゆう自動車か、って話からしましょうか。あれはですね、真正純粋まごうことなきスポーツカーです。メディアは気軽にこの“スポーツカー”という単語を連発しますが、雑すぎるだろ! スポーツカーとはスタート地点から設計を機動性に全振りして作ったクルマを指しますから。昔のセリカやシルビアやプレリュードなんぞは、乗用車の上屋をソレ風にした“コスプレ車”なのよ。トヨタ 86だってインプレッサの魔改造車です。

生真面目にスポーツカーなんかつくっちまうと儲からないので、日本メーカーはたいていコスプレで済ますのがお約束。日本車でスポーツカーと胸を張って呼べるのは数えるほどしかない。トヨタ2000GTとレクサス LFA。2座仕様の初代S30系〜Z31型のニッサン フェアレディZ。あとはスズキ カプチーノ。ホンダ勢はNSXとS2000くらい。マツダでは、歴代ロードスターと初代L10系コスモ・スポーツ。そして3世代目のこのRX-7くらいのもんかなぁ。長い歴史から拾い上げても「本物のスポーツカー」はニッポンじゃこれくらいしかねえんですよ、悲しいことに。

そんな希少種の中でもRX-7は企画がもうマナジリ決してる。事実上の2シーターに割り切って寸法を決めた。前輪の中心と後輪の中心との距離をホイールベースと言いますがFD3S型は2425mm。車幅に対してこいつが長いと旋回機動がダルくなる。
その点では弟分のロードスターはもっと短い2.3m前後なんですけど、あっちは非力なエンジンの小回り特化マシンだから成立するのであって、200馬力台後半を発揮するFD3Sでは過敏すぎる。ホイールベース2.4mちょいだから、動力性能と4輪のスタンスが絶妙にバランスとれてるわけ。そしてホイールベースの内側にエンジンもトランスミッションも重いものはきっちり収まってる。

フェラーリ250 GTOに通じるプロポーション
実はそんなFD3Sに近いクルマが昔ありました。フェラーリ 250GTOです。フロントエンジン後輪駆動スポーツカーの究極体であり、レースという鉄火場における戦績も輝かしく、30数台しか生産されなかったので今や70億円以上! で売り買いされてる往年の宝物。それとFD3S型は似通った体形なのです。
とまあ。そこまではとてつもなく素ン晴らしい。プレゼンスは輝かしく眩しいのです。少なくとも日本車の中では群を抜いてる。

ボディ剛性は“豆腐”レベル!?
ですが……仕上がりがヤバいのよこのクルマ。
まずボディ剛性が足りない。ヤワい。現代を基準にしたりするとマジ豆腐。FD3Sを設計するとき車体を軽量化しようとして開発陣が零戦を観に行ったという逸話が美談として残されてますが、軽量化をやりすぎて初期には急降下時に機体が共振して危うかった飛行機を参考にしちゃったのはどうなのか。
少なくともリアの巨大なハッチバックはやめたほうがよかったんじゃないかなあ。大馬力が流れ込む後輪を支えるところに大孔が開くわけだしねえ。大腿四頭筋や下腿三頭筋を鍛えても体幹が弱いとダメなのと一緒で、車体がヤワだったらアシ周りもちゃんと働いてくれないのです。

クセ者すぎるロータリーターボ
加えてFD3Sはエンジンが厄介だった。なんかネット上でも印刷物でもロータリーは夢のエンジンみてえな妄想話が跳梁跋扈してますが寝言です。書き散らしてる奴は乗ったことあるのかねえ。
原理的にどうよの話は長くなるんで省きまして、FD3Sの場合の現象だけ書きますわ。力感はねえです。ターボは効きます。ただしアクセル踏んでからしばらく遅れてドッカン。ポルシェ959の真似してシーケンシャルだぜとイキッてましたが過給遅れは明明白白だった。

おまけにエンジンマウントがもうね情けない。普通のエンジンのマウントは力学解析の末に設計されますが、とりえあず座布団2枚布いときました的にテキトー。RX-8のときに広島まで行って取材して訊いてみたら初作のコスモスポーツの時からFD3Sまで何もしてなかったとのこと。
そんなマウントだからアクセル開閉で盛大にシャクる。シャクッた直後にターボラグ来てアシさばきも覚束ないからリアの振る舞いが地雷。寸法ヨシ! 軽さヨシ! と来るから嬉しくなって山道なんぞ飛ばそうとすると、あんな怖ええクルマはなかったですぜ。

本物を操る、覚悟
なのに。なのにですよ。往時のFD乗りはそんなFD3SでR32型スカイラインGT-Rにタメ張って走ってたわけです。90年代後半に全盛時を迎えてた首都高都心環状線はもちろん、湾岸の最高速ステージでもそうだった。これはすごかった。感動した。
はい。では、結論を書きましょう。FD3S型RX-7は日本では稀有な本当のスポーツカー。ただし残念ながら仕上がりは素晴らしくはない。FDじゃなくて、FDを走らせてる手練れたちが素晴らしかったのです。
そういうFD乗りになれる自信と心意気があるのなら心からお薦めします。てかそんなFD乗りになってください。「クルマじゃねえ、俺が速えぇんだ」と言い切る即興ピアノ弾き。カッコいいなあ。

沢村慎太朗の辛口COLUMN 「剛性と強度、ゴッチャにすんな」
金属は力を少しずつ加えていくと徐々に変形していきます。んでもって初めのうちは力を抜くと元に戻ります。ところが構わず力を増していくと元に戻らなくなる。元に戻ってくれる領域での変形しやすさ・変形しにくさを剛性と言います。戻らなくならずに堪えてくれる限界の高さを強度と言います。
なのにインターネットは混同の豊作祭りですなぁ。なかでもクルマ界隈とかギター界隈。剛性のことを強度とか言っちゃってたりする。気取らずに「強さ」とか「剛さ」とか普通の形容詞を使えばいいのになー。

1962年東京生まれ。作家・モータージャーナリスト。早稲田大学第一文学部(美術史学)卒業後、編集者を経て独立。抜きん出た機械設計の分析力と、試乗時にエアゲージや巻尺などを持参する実証主義で国内外の新旧あらゆるクルマを評価する。海外エンジニアへの取材も多く、歯に衣着せぬ辛口評論は時にクルマ好きを唸らせ、時にメーカーを震え上がらせる。著書に『スーパーカー誕生』『午前零時の自動車評論』ほか。有料会員制メールマガジン『沢村慎太朗FMO』には業界問わず、多くのファンを持つ。