CAR

2025.07.16

なぜ、ロールス・ロイスは究極のラグジュアリーカーなのか。英国工場視察と「ブラック・バッジ・スペクター」試乗記

イギリス・グッドウッドにあるロールス・ロイスの工場では、一台一台オーダーメイドで仕立てられている。4万色以上から選べるボディカラー、内装はヘッドレストの刺繍まで思いのまま。そんな“クラフツマンシップの聖地”を訪れたあと、最新モデル「ブラック・バッジ・スペクター」をスペイン・バルセロナで試乗した。

ロールス・ロイスの本社で、ラグジュアリーが生まれる現場を見た

“走るオートクチュール”とも言われるロールス・ロイス。そんな唯一無二のクルマが製造される現場に向かった。

場所はイギリス南部・グッドウッド。ヒースロー空港からクルマで約2時間、のどかな田園風景の中にモダンな最新施設、ロールス・ロイスの本社兼工場が静かに佇んでいた。ここで日々、 “走るオートクチュール”は生まれているのだ。

美しいガラス張りの建物のなかで、世界中のオーナーのために一台ずつクルマが組み立てられている。すべてがオーダーメイドで、たとえばボディカラーは4万4000色以上から選べる。

希望の色がなければ調合して、香水のように自分オリジナルのカラーを作ることも可能。しかもその色には、自分の名前をつけられるというのも嬉しい。しかもその色には、自分の名前をつけることもできるというのだから、唯一無二の一台という特別感がさらに高まる。

内装も自由度が高く、ヘッドレストに愛犬の刺繍を入れるオーナーもいれば、ダッシュボードやドアなどに思い出の風景や地図を再現したり、天井にパートナーとの記念の星空を創り出したり、自分のプライベートジェットの内装と合わせたデザインにする人がいたり。クルマというより、もはやひとつのアートだ。

オーナーたちは新規オーダーした自分の作品の作成過程の写真を見ることができ、また、世界各地からオーナーたちは自分の作品が創作される過程を見にこの工場に訪れる。その生まれるストーリーを体感できるのも、愛着がわく理由のひとつだろう。そして、その場で感じたことや追加したいことがあったら、その場でデザイナーに相談して、追加でオーダーすることができる。

ロールス・ロイスは今後、このグッドウッドの工場に3億ポンド(約600億円)を投資し、敷地を2倍に拡張する予定だという。とはいえ、年間生産台数である6000台を増やすつもりはない。

"ハウス・オブ・ラグジュアリー"――その言葉通り、ここでは効率よりも品質と体験を重視している。

すべてのモデルは同じラインで組み立てられ、一般的な自動車工場とはまるで時間の流れが違う。1台あたりの組み立てにかかる時間は約40分と言われているが、ロールス・ロイスはその多くが手作業。

約2500人のスタッフが働き、1日に完成するのはわずか28台。しかも、工場内はとにかく美しい。清潔で整然としており、製造現場であることを忘れてしまうほどだった。

ロールス・ロイス史上最もパワフル。「ブラック・バッジ・スペクター」のとんでもなさを体感

そんなクラフツマンシップの現場に圧倒されたあとは、スペイン・バルセロナへ移動。目的は、ロールス・ロイスの最新モデル「ブラック・バッジ・スペクター」の試乗だ。

スペクターは、ロールス・ロイス初のBEV(バッテリー式電気自動車)。そのなかでも“ブラック・バッジ”は、より個性とパフォーマンスを求める人のために用意された特別なシリーズだ。艶消しのブラックパーツや力強い佇まいが特徴で、伝統を継承しながらも一歩先へ踏み出すような意志が感じられる。

さっそくバルセロナ市街を走り出すと、まず驚いたのはその静けさ。まるで車内が“動くスイートルーム”のように、外界の喧騒から切り離された空間が広がっていた。郊外のワインディングロードでは、2.9トンの車体とは思えない軽快なハンドリング。アクセルを踏むと、静かに、だが確かに力強く前へ押し出されるような加速感に包まれる。

「ブラック・バッジ・スペクター」には、特筆すべき機能がふたつある。

ひとつ目は、ステアリング・ホイールにあるインフィニティ・ボタンを押すことで発動する「インフィニティ・モード」。このモードでは485kW(659hp)の最高出力が解放される。

実際に、高速道路や山間部の坂道で試すと、ダイレクトな加速が印象的だった。ダイナミックでありながら、車内には静寂と余裕があり、荒々しさではなく、むしろ気品を感じる。

ふたつ目の特徴は、爆発的な瞬時加速を体感できる「スピリテッド・モード」。これはサーキット場で体感した。

最初の周回では、自動運転モードでジグザグのカーブを30~40km/hでスムーズにクリア。次第に車のポテンシャルへの期待が高まっていく。

2周目の最終コーナー後、の最後のストレートで停止する。ストレート区間で完全停止。ここで、ブレーキとアクセルを同時に踏み込み、一気にブレーキを解放すると──トルクは1075Nmまで高まり、わずか4秒で時速100kmを突破。さらに120mで160kmまで加速した。

ロールス・ロイス ブラック・バッジ・スペクター
最高出力 : 485kW
最大トルク : 1075Nm(スピリテッド・モード時)
価格:¥56,140,000~(スタート価格、ビスポークによって変動するため)
消費電力量 : 2.6-2.8 mi/kWh / 23.8-22.2 kWh/100km
航続距離 : 493〜530km

驚くべきは、その“静かな爆発力”。加速の速さはまるでジェットコースターだが、身体に感じるGは穏やかで、ロールス・ロイスらしい優雅さが最後まで失われることはなかった。この違和感こそが、最も印象に残った。

ロールス・ロイスは、スポーティではない。ダイナミックだ。そして、そのダイナミックさは、どこまでも上品である。

正直、ラグジュアリーカーでサーキットを走る日が来るとは思っていなかった。しかし、実際に走ってみると、印象は一変。圧倒的な力強さ、そしてそのなかにある優雅さ。相反するようでいて、どちらも本物──そんな矛盾が共存する不思議な一台だった。

グッドウッドの工場見学、そしてバルセロナでの試乗体験。その両方を通じて感じたのは、ロールス・ロイスは“ただ高級なクルマ”ではないということ。どこまでも自分らしくいられるように、細部まで静かに、確かに寄り添ってくれる。ラグジュアリーの本質とは、こういうことなのだと思う。

問い合わせ
ロールス・ロイス・モーター・カーズ TEL:0120-980-242

TEXT=森田智彦(ゲーテ編集部)

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