チャールズ国王(当時は皇太子)の21歳の誕生日に、故エリザベス女王がプレゼントしたのがアストンマーティン「DB6ヴォランテ」だった。創業112年、イギリスを代表する名門アストンマーティンのフラグシップモデルに、屋根が開く「ヴォランテ」が加わった。今や希少な存在となったV型12気筒エンジンを積むこのモデルは、自動車の古典的な魅力と革新的な技術が融合する。

まさにジェームズ・ボンド
クルマとその祖先にあたる馬車の共通点は、“先っちょ”が長いほどエラい、ということだった。馬車の場合は2頭や4頭仕立てと馬数が増えるほど高級になり、クルマも8気筒より12気筒とシリンダーの数が多い(=先端部が長い)ほどステータスが高かった。
「高かった」と過去形にしているのは、小型高出力のモーターを積む電気自動車の出現で、先っちょが長いほど立派だという価値観が古くなったから。モーターはどこにでも配置できるから、電気自動車はUFOみたいな円盤型も可能になる。
そんな時代にあって、アストンマーティンの旗艦モデル「ヴァンキッシュ」は長いボンネットの下に巨大なV型12気筒エンジンを収めるという、古典的なルックスで新たに登場した。おまけに後端をスパッと切り落としたリアビューは、1960年代のレーシングマシンを思わせるコーダトロンカ(イタリア語で切り落とした尻尾の意)のスタイルだ。しかし、このロングノーズ・ショートデッキというスタイルがとてつもなくルックスがいい。ミケランジェロのダビデ像のように、永遠に古くならない完璧なプロポーションだと思える。
加えて、この時代に敢えて新設計したV12エンジンと、強くて軽い最先端のカーボンボディが織りなすパフォーマンスも圧巻。市街地では、英国紳士のように洗練された振る舞いを見せる一方で、ワインディングロードで鞭を入れれば、イングランド代表のラグビー選手のように怒涛のパワーで突進する。ケンカも強いジェントルマン、まさにジェームズ・ボンドのようなモデルなのだ。
悩むのは、きりりと引き締まった凛々しい「クーペ」を選ぶか、ソフトトップが優雅な印象を与える「ヴォランテ」を選ぶか。もし、この幸せな選択に悩む機会に恵まれたなら、散々迷ったあげくに「ヴォランテ」を選ぶべきだ。屋根を開け放つと風を感じるだけでなく、V12エンジンが奏でる美しいエグゾーストノートがダイレクトに鼓膜を震わせてくれるからだ。
ASTON MARTIN VANQUISH VOLANTE

エンジン:5.2L V12ツインターボ
ボディサイズ:全長4850×全幅1980×全高1296mm
最高出力:835PS/6500rpm
最大トルク:1000Nm/2500-5000rpm
車両重量:1880kg
価格:¥57,200,000~
問い合わせ
アストンマーティンジャパン TEL:03-5797-7281