量産化が困難を極めたことから、イーロン・マスク本人が決算説明会で「自分で自分の墓穴を掘るようなもの」と語ったとされる「サイバートラック」。テスラが送りだすBEV(バッテリー式の電気自動車)のピックアップトラックが、いよいよアメリカの街を走り始めた。ただの新型車ではなく、高級車市場の生態系を壊す予感。連載「NAVIGOETHE」とは……
高級車市場の生態系を壊す予感!?
1950年代のオリジナルMINI、’70年代の初代フォルクスワーゲン・ゴルフ。自動車史を遡ると、クルマ社会や人々の生活様式に影響を与えるほどのエポックメイキングな名車が存在した。いよいよアメリカでデリバリーが始まったテスラ「サイバートラック」も、“ゲームチェンジャー”になる可能性を秘めている。
サイバートラックは、電動のピックアップトラック。1トン以上の荷物を積み、5トン近い重量物をけん引し、悪路でも突き進む。一方で、スーパースポーツを超える加速性能と、後輪操舵によるミズスマシのようなコーナリング性能も備える。さらには、静かで快適、広々とした後席で、高性能サウンドシステムが奏でる音楽や美しい映像を楽しむこともできる。
スケジュール帳と財布とカメラと電話がスマホに集約されたように、サイバートラックには最上級のSUVとスポーツカーとショーファーカーの要素が詰まっているのだ。まさに全能の1台で、高級車の概念が変わる。
なぜこんな離れ業が可能になったのか? エンジンの場合は、トラック用とスポーツカー用では構造が異なる。けれども電動モーターの場合は、デジタル制御で力士になったりスプリンターになったり、一瞬にしてキャラ変ができるのだ。電気自動車は静かで排出ガスがゼロというだけでなく、ファン・トゥ・ドライブの可能性も広げられる。
価格も魅力的で、最上級のサイバービーストでも9万9990ドル(※2024年1月10日現在、日本円で約1440万円)で日本仕様の価格はまだ発表されていないが、高級SUVやスーパースポーツが軒並み2500万円コースになっていることを思えば、お値打ちとも言える。
50年後、「サイバートラックでクルマの歴史は変わったね」という会話が交わされても、なんら不思議ではない。