200年近い歴史を誇るシャンパーニュの老舗「メゾン マム」。2024年4月、最高醸造責任者として新たにヤン・ムニエ氏が就任した。この11月には初来日を果たし、”勇気と成功”を象徴する「メゾン マム」のスタイリッシュな味の秘密と今後のヴィジョンを語ってくれた。
名門を新たに背負う若き最高醸造責任者
軽やかで洗練されたスタイルで根強いファンが多いのが「メゾン マム」だ。
フラッグシップの「マム グラン コルドン」は、フランスの最高勲章”レジオン・ドヌール”をモチーフにした赤いリボンを纏ったボトルで知られる。1827年、ドイツの由緒あるワイン商フォン・マム一族がシャンパーニュ地方の主都ランスに創業。以来「Only the Best~最高のシャンパーニュだけを~」の理念のもと、品格ある味わいのシャンパーニュを世に送り出してきた。
メゾンの成功のきっかけとなったのは、1876年の「マム コルドン ルージュ」(現「マム グラン コルドン」)の誕生だった。フレッシュ&フルーティーなスタイルが初心者から“通”までの心を捉え、大人気となったのだ。
1904年にはフランス人極地探検家シャルコーが南極到達の成功を祝して、かの地で祝杯を掲げた。また、映画『カサブランカ』ではハンフリー・ボガードの「君の瞳に乾杯」のセリフのシーンにも登場、時代を彩った。
この名門を新たに背負ったのが、最高醸造責任者のヤン・ムニエ氏だ。シャンパーニュ地方南部ヴィトリー・ル・フランソワ村のブドウ栽培者兼醸造業者(レコルタン・マニピュラン)の家に生まれ、子どもの頃から「将来は、自分もシャンパーニュ関係の仕事に就くもの」と思っていたという。
大学では農業と栽培を学び、卒業後は大手協同組合に入社、その後、大手メゾンで研鑽を積んだ。2017年に協同組合に戻ってからは、最高醸造責任者となって活躍した。そして2024年の4月、その実力が認められ、「メゾン マム」に最高醸造責任者として招聘された。ヤン・ムニエ氏は述懐する。
「誇らしい思いとともに、複雑な感情がありました。メゾン マムは世界的メゾンのひとつで200年の歴史を持つ老舗。それを自分が背負えるのかと自問自答を繰り返しました。ですが、ここには新たな世界が扉を開けて待っている。挑戦しようと決心しました」
ヤン・ムニエ氏はメゾンの歴史や哲学を自分のものとするために、歴代の最高醸造責任者たちが遺したバック・ヴィンテージの試飲を行った。こうすることで、その年のテロワールやセラー・マスターたちの思考などが理解できるのだという。
「何より、“メゾン マムのスタイルとは何か”が理解できるのです」とヤン・ムニエ氏。
たとえば、メゾンが大切にしているのは黒ブドウ品種のピノ・ノワールだ。通常、黒ブドウ主体のシャンパーニュは芳醇でコクのあるスタイルに仕上がることが多いが、メゾン マムは軽やかで繊細な味わいに仕上げる。この理由を尋ねると、ヤン・ムニエ氏はこう教えてくれた。
「私たちが理想とし、使用しているピノ・ノワールは、この品種の名産地モンターニュ・ド・ランスの北向きの畑で育ったもの。美しい酸味を保ったまま、ゆっくりと育ちます。これにシャンパーニュ地方の南にあるコート・デ・バールのフルーティーなピノ・ノワールをブレンドするのです。そして、このピノ・ノワールにブレンドするにふさわしいシャルドネとムニエを選ぶことで、“メゾン マムのスタイル”が出来上がるのです」
また、今回の来日に際し、ヤン・ムニエ氏はメディアを対象に一風変わったセミナーを行っていた。実はこれも、メゾンが大切にするピノ・ノワールの多彩な表情を体感してもらうためのものだった。
その実験は、メタルやレザー、ガラスの球体など、質感の異なるオブジェを手にしつつ、「マム グラン コルドン」を試飲するというもの。最初のひと口はフレッシュ&フルーティー、素直に美味しいと思えるのだが、メタルに触れながら飲むとどこか冷たさを感じ、レザーを手にすると軽やかな渋みが顔を出す。そして、ガラスの球体を持ちながら飲むと味わいがまろやかに。
「冷たさはミネラル感、軽やかな渋みはタンニン、まろやかさはボリュームとテクスチャーを表しています。これらは科学的に証明されたものではありませんが、触感が味に与える影響を体感することで、ピノ・ノワールの多彩な表情を知っていただきたいと思いました」
この実験もまた、彼自身が“メゾン マムのピノ・ノワール”を知る上で役立つのだという。
自分は新たなスタートを切ったばかり。やらなくてはいけないことは山ほどある。気候変動に対応する栽培の取り組みや、ブドウ農家との信頼関係の構築、なにより、それぞれのキュヴェの品質を守りつつ、より高めなくてはならない。ヤン・ムニエ氏の胸の内には多くの思いが隠されている。
「テロワールをリスペクトしつつ、エレガンスに満ちたシャンパーニュを造りたい。私たちのシャンパーニュは“幸福の瞬間”を分かち合えるものでありたいと思っています。これからの日々を思うとワクワクします(笑)。“進化の旅”を続けていきたいですね」
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