ニュージーランドといえばソーヴィニヨン・ブラン。なにしろこの国で栽培されているブドウの76.5%を占めるのがこの品種。ところが、この国で造られるスパークリングワインも出色の出来。クラウディー ベイの「ペロリュス」には、本場シャンパーニュのノウハウが注ぎ込まれている。
NY産ソーヴィニヨン・ブランのお手本的存在
ソーヴィニヨン・ブランがニュージーランド南島のマールボロに初めて植えられたのは1973年。その後、この品種のポテンシャルに着目したオーストラリア人ワインメーカーのデヴィッド・ホーネンがマールボロに進出。1985年に設立したワイナリーが「クラウディー ベイ」である。
爽やかな柑橘系のアロマとはつらつとした味わいを備えたクラウディー ベイのソーヴィニヨン・ブランは、たちまちのうちに世界を席巻。ニュージーランド産ソーヴィニヨン・ブランのお手本として、多くのワイナリーが、クラウディー ベイのスタイルを目指すようになった。
このように、ニュージーランドといえばソーヴィニヨン・ブラン、ソーヴィニヨン・ブランといえばクラウディー ベイだが、じつのところ、忘れてはならないのがこのワイナリーが生み出すスパークリングワイン。「ペロリュス」である。
名前の由来は伝説的なカマイルカの「ペロリュス・ジャック」。この利口なイルカは19世紀末から20世紀の初めにかけて、ニュージーランドの北島・南島間を行き交う船舶の水先案内人を務めたのだとか。ペロリュスの誕生は創業からわずか2年後の1987年で、マールボロ産のシャルドネとピノ・ノワールを用いたトラディショナル・メソッド=伝統的製法のスパークリングワインである。
ところで、スパークリングワインとひと口にいっても、さまざまな製法がある。一番簡単なのが炭酸ガス封入法で、読んで字の如く、出来上がったワインに炭酸ガスを充填する方式。これだとキメの細かい泡を得ることがむずかしく、味わいもシンプルなものになりがち。
次にシャルマ法と呼ばれる製法があり、密閉されたタンクの中でワインを発酵させ、その時に生じた炭酸ガスをワインの中に封じ込めるというもの。比較的キメ細かな泡のスパークリングワインを大量に造ることができるが、味わいの深みにはやや欠ける。
そして、もっとも手間がかかる一方、気泡の細かさと奥深い味合いから、高級スパークリングワイン造りの製法として用いられるのが伝統的製法だ。もちろん、スパークリングワインの王様、シャンパーニュもこの製法である。
伝統的製法は1本1本瓶の中でワインを発酵させ、その際に生じた炭酸ガスを封じ込めるというもの。その後の澱の処理や熟成中の瓶の保管場所など他の製法と比べて手間がかかるし、スペースも必要になる。とくにこの製法で重要なのが熟成。瓶の中でワインを発酵させると、役目を終えた酵母が瓶内に溜まる。これを澱といい、澱は瓶内熟成中に自己分解を起こして、スパークリングワインにトーストのような香ばしいフレーヴァーと複雑で厚みのある味わいを与えてくれるのだ。
少し話が脱線したけれど、ペロリュスもこの伝統的製法によるスパークリングワイン。シャンパーニュのヴーヴ・クリコはこれに目をつけ、1990年、クラウディー ベイに出資した。当時のセラーマスターだったジャック・ペテルスがマールボロを訪れてヴーヴ・クリコのノウハウを伝授し、ペロリュスの質はさらに向上。現在は100%、モエ ヘネシーの傘下となり、現在でもシャンパーニュとマールボロの相互で緊密な交流が続いているという。
シャンパーニュに匹敵する完成度の高さ
1970年代以降、カリフォルニア、アルゼンチン、オーストラリアなど、ニューワールドと呼ばれる国々で伝統的製法のスパークリングワインが造られるようになったものの、温暖なこれらの国々では、酸のキレが王者シャンパーニュにおよばない。その点、冷涼な気候のニュージーランドでは、シャンパーニュ並みのピュアな酸が得られる。それに加えてこのペロリュス、瓶内熟成期間が最低2年と比較的長いことにも注目だ。ノンヴィンテージ・シャンパーニュの最低熟成期間が15ヶ月(そのうち澱との熟成期間は最低12ヶ月)だからそれよりも長く、澱が豊かなフレーヴァーと味わいのコクを与えてくれる。
で、このペロリュス、トップノーズは柑橘類や青リンゴの爽やかなアロマが支配的だが、それにオーバーラップするようにハチミツやトーストのフレーヴァーが現れ、口に含むとフレッシュでキレのある酸とともにまろやかな果実味や旨み成分が口の中に広がる。
あまたあるスパークリングワインの中でも出色のクオリティにもかかわらず、ノンヴィンテージ・シャンパーニュのほぼ半額というプライスが涙もの。名声の高さと引き換えに、これ以上ブドウ畑を広げられないシャンパーニュは、年々ブドウの取り引き価格が上昇し、それにつれて製品の価格も上がり続けているけれど、ニュージーランドには手付かずの広大な土地がある。だから、シャンパーニュに遜色ない品質でも価格を抑えることができるのだ。
もちろん、クラウディー ベイのお家芸ともいうべきソーヴィニヨン・ブランは安定の出来栄え。このワインにも年々品質向上のための努力が注がれている。最新の2023年ヴィンテージは、パッションフルーツやグースベリーの華やかなアロマとともに、暖かな年を反映して白桃や洋梨などストーンフルーツのまろやかな果実香も広がり、味わいはフレッシュで快活。グリーンアスパラガスのサラダやシェーブルチーズは鉄板の組み合わせ。
一方、ペロリュスはアペリティフにこれだけで楽しむのももちろんよしだが、新鮮な生ガキと合わせると最高。ほかにもホタテのカルパッチョやエビのカクテルなど、シーフードとの相性が抜群によい。お寿司? もちろん、ペロリュスとのペアリングはばっちりだ。
今年の年末年始、ニュージーランドの本格的スパークリングワイン「ペロリュス」で乾杯してはいかが?
問い合わせ
MHD モエ ヘネシー ディアジオ TEL:03-5217-9725