食材王国と言われる北海道で、この土地ならではの美味のストーリーを紡ぐ人々がいる。広大で肥沃な大地の恵みと料理人の叡智が感動をもたらす食空間を、旅の特別な目的地にしたい。今回紹介するのは、十勝の「ELEZO ESPRIT(エレゾ エスプリ)」。【特集 北海道LOVE!】
開拓の地で挑戦を続ける“食肉料理人集団”の集大成
“新たな食肉文化を創造する開拓者”。かつては不毛の地であった十勝平野の発展を夢見て、多くの開拓者が入植した豊頃(とよころ)町・大津地区。ここに拠点を置く「ELEZO社」を率いる佐々木章太さんの人物像を語るにおいて、これほどしっくりくる言葉は他にないだろう。
帯広で飲食店を営む家に生まれ育ち、調理師専門学校を卒業後は道外のリゾートホテルや東京のフランス料理店で働いた。家業を継ぐために北海道へ戻り、自分の料理を模索する日々。
そのなかで、あるハンターが店に持ちこんだエゾ鹿が、佐々木さんの運命を大きく動かした。「命から食べ物に変わるプロセスを体験したことがないだろう」。フランス料理のシェフとして、ジビエを扱う機会は多くあったが、その鹿肉を食べた瞬間の衝撃は今でも鮮明に覚えていると佐々木さんは言う。
以来、持ち前の探究心と行動力のすべてをジビエに注ぎ、2005年には狩猟から加工、販売まですべて自社で一貫して行う「ELEZO社」を立ち上げた。
北の大地で飛躍する“食肉料理人集団”の存在は、瞬く間に料理業界に広まり「ELEZOの食肉を扱いたい」と、オファーが殺到。現在、取引をする飲食店は全国300軒以上にもなるが、心の底から信頼関係を築くために、日頃から細やかなやりとりを繰り返し、佐々木さん自身も、北海道の食肉文化を活性させる試みを続けている。
2022年、会社設立時からビジョンとして掲げていたオーベルジュもオープン。東京ドーム2個分の敷地には、宿泊棟とレストランのほか、オフィスにラボラトリー、豚や食鳥を育てるファームも。
レストランではゲストのために佐々木さんが腕を振るい、自然と、命と真っ向から向き合ってきた“開拓者”の情熱を6〜7皿のコースで伝える。
美食の旅、というには軽すぎるかもしれない。だが、命をいただくというありふれた日常を超越する体験は、忘れられない記憶として心に残るはずだ。
十勝|ELEZO ESPRIT/エレゾ エスプリ
帯広空港からクルマで1時間。「ELEZO社」の新しい試みとして2022年10月にオープン。ゲストルームのチェックインは14:00、チェックアウトは13:00。レストランのみの利用も可能。コースは¥28,000。
住所:北海道中川郡豊頃町大津127
TEL:070-1580-1010
営業時間:18:30~(一斉スタート)
料金:¥65,000(1泊1名。2名の場合はひとり¥55,000。1棟につき最大2名まで利用可。2食つき)
この記事はGOETHE2023年9月号「総力特集:北海道LOVE!」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら